研究課題/領域番号 |
18H03679
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
桂木 洋光 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (30346853)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 粉体 / 階層構造 / 衝突 |
研究実績の概要 |
今年度は,階層粉体の衝突に関するデータの解析と論文発表,付着性粉体層内の空隙の安定性に関するデータ解析と論文執筆などを中心に研究活動を行い,同時に階層粉体の力学特性の特徴付けに必要となる新規実験系の検討や準備を行った.階層粉体の衝突実験は,ドイツブラウンシュバイク工科大学のブルム教授との国際共同研究課題として実施されたものであり,そのデータ解析を本年度の前半に集中的に行った.その結果,階層粉体および通常の粉体(ガラスビーズ)をターゲットとして用いた微小重力衝突実験(弾丸は固体弾)でのターゲットの膨張速度は弾丸の持つ衝突エネルギーのターゲットへの等方的分配に基づくスケーリングにより説明可能なことが明らかになった.このエネルギーの等方的分配はターゲットが階層粉体であるか否かにかかわらず成り立つ普遍的なスケーリング則であることが実験結果より明らかになり,これにより階層粉体と通常の粉体は微小重力下での衝突応答が類似しているということが示唆された.この類似性が微小重力衝突実験に特有の結果であるか,それともより普遍性の高い類似性であるかという問題は今後検討を進める必要のある重要な課題であると考えている.付着性粉体層内の空隙の安定性に関する研究については,濡れた粉体層中のトンネル構造の力学的安定性に関する実験についてこれまで得られた結果の解析とまとめを行った.付着性の粉体は容易に凝集構造等を形成することよりある種の階層構造を持つ粉体となっているが,その付着性粉体層内部にある空隙の安定性は,砂浜に見られるカニの巣穴の安定性から彗星表面に観測される地盤沈下的陥没地形構造に至るまで幅広い自然現象と関連することが詳しい検討から明らかとなった.得られた結果の学会,論文等での発表にも積極的に取り組んだ.その他,粉体斜面や固液分散系への衝突実験も行い,階層粉体に関する新たな実験系の検討・準備も進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
いくつかの階層粉体に関連する実験結果について検討・解析等を進め,結果をまとめることに成功した.得られた結果は学会や論文等で発表され,研究計画の初年度から具体的研究成果の発表に至り順調な研究の滑り出しができたと言える.さらに,粉体の摩擦や流れ,衝突による崩壊などの様々な現象の研究についても取り組むことがてき,それぞれの研究で一定の成果を得て,結果の論文発表を行うことができた.また,新規実験系の検討についても十分に行うことが出来た.微粒子の扱いに必要となるハンドリング環境や設備の準備,真空環境などの検討・装置整備を着々と進め今後の実験をスムースに行う準備を整えることができた.当初計画では主に実験準備を進めることを初年度の目標としていたが,それに合わせてこれまでに得られたデータ等の解析なども進めることに成功し,論文等の発表も行うことができた.継続的研究活動の中で比較的早い段階から成果を得られた部分は予想以上の進捗と言えるが,実験系の検討や装置の準備は年度末ぎりぎりまでずれ込んでしまった部分もある.以上の状況より,本研究計画は多少のムラはあるもののおおむね順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き様々な階層構造を有する階層粉体の基礎物理特性の研究を行う.昨年度までに得られた結果の解析とまとめを進める一方で新規実験にも取り組む.結果の解析・まとめとしては,昨年度に行った粉体斜面への衝突実験と固液分散系への衝突実験の結果の解析を進めて結果を発表することが目標となる.実験としては,昨年度までに準備した微粒子の凝集ハンドルリング系や真空系などの装置群を用いて,ミクロ粒子の凝集体により構成されるマクロ粒子群に振動や低速の一軸圧縮などを加えその応答を計測する系を想定している.とくにミクロ粒子の凝集により構成されたマクロ粒子がどのような外力により破砕等に至るかを短い時間スケール(振動)と長い時間スケール(低速一軸圧縮)の二種類の極限で計測し両者を系統的に比較する.また,ミクロ粒子の凝集により構成されるマクロ粒子の集合を粉体と見なした場合の流れ挙動についても比較的簡単な斜面流のような状況で計測することを計画しており,得られた結果をガラスビーズなどの通常の粉体の場合と比較しつつ階層粉体と通常粉体の流動特性の類似点・相違点を検討する.すなわち,階層粉体を構成する一個粒子の力学特性と,それらが集団となった粉体的状態での力学特性をそれぞれ個別の実験に基づいて評価することが本年度の研究の方向性となる.その他にも,天体物理的応用を視野に入れた衝突による地形緩和に関連する実験・データ解析等にも取り組む.天体上では空気抵抗等の効果がなく重力も様々となり,そのような状況で天体表面に分布する粉体(レゴリス)が付着性等の効果で特異な挙動を見せる場合がある.そのような挙動も本研究の対象としている粉体の階層構造等に由来する特殊なものと考えることができる.以上の様な実験および解析等を通して階層粉体の挙動を明らかにしていくことが今後の研究推進の主な方策となる.
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