研究課題
本研究では、半導体ナノ粒子や単原子層材料に固有の電子状態、電子間の強いクーロン相互作用、さらには特異的な表面電子状態に起因した高調波発生を探索するとともに、バルク結晶と比較することによりナノ構造固有の高調波発生のメカニズムを解明することを目的としている。初年度は、高次高調波発生の理解とその制御を目的として、2色の励起光源を組み合わせた励起・計測手法を新たに開発した。試料を中赤外光で強く励起することにより、バンド端から離れた大きな波数領域に電子を駆動して生じる高次高調波を測定した。特にレーザーの偏光に対する結晶角度依存性や強度依存性を測定し、強電場励起による非線形光学現象と従来の弱励起下での非線形光学との関係の解明を目指した。その結果、層状化合物半導体GaSeにおいて材料固有の特異なバンド構造を反映して、高次高調波発生の発生選択側が決定されることを初めて明らかにした。また、新しい光電変換材料である有機無機ハイブリッドハロゲン化鉛ペロブスカイト半導体の薄膜試料において、従来の半導体に比べて高効率な高次高調波発生を観測することに成功した。高効率な高次高調波発生の起源を明らかにするために、ペロブスカイト構造固有のバンド構造を取り込んだ理論計算も進めた。高調波の起源である非線形電流は励起された価電子帯内を運動する正孔が主要な寄与であり、従来とは異なるモデルによって説明できる可能性があることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
高次高調波発生の理解とその制御を目的として、2色の励起レーザー光源を組み合わせた励起手法を新たに開発し、層状化合物半導体GaSeにおいて2色励起によって発生する高次高調波を観測した。特に、発生した高調波強度の結晶に対する角度依存性、また励起強度依存性、励起光の次数依存性を詳しく調べた。励起に関わる2色のそれぞれの光の次数によって、高調波強度の角度依存性が変化することがわかった。低い励起強度では現れないが、高い励起強度でのみ発現する新しい角度依存性が観測され、従来の摂動論的な非線形光学では理解できない特徴を持っていることを明らかにすることに成功した。さらに、新しい光電変換材料である有機無機ハイブリッドハロゲン化鉛ペロブスカイト半導体の薄膜試料からの高効率な高次高調波を観測した。具体的には、ハロゲンイオンの異なる3種類のペロブスカイト半導体MAPbX3(MA= CH3NH3、X=Cl、Br、I)の薄膜状試料(厚み200nm)に、最大ピーク電場が10MV/cmの中赤外レーザーパルス(0.35eV)を照射し、可視光から紫外領域にわたる高次高調波の発生を実証した。これまでによく研究されてきた半導体GaSeに比べて、単位厚み当たりの高調波の強度は最大で100倍程度の大きさになることを確認した。理論計算との比較により、高調波の角度依存性は高次の非線形吸収を反映したものであり、非線形電流は励起された価電子帯内を運動する正孔が主要な寄与であることを示した。このように従来とは異なるモデルを提案した。これらの成果をまとめて、国内外の学会で発表を行った。
高次高調波発生機構の理解を深化するために、ナノ構造体からの高次高調波発生に挑戦する。固体における高次高調波発生では強い光電場による電子駆動が重要な役割を担っていると考えられている。大きなバルク結晶(バンド電子)と小さな原子・分子(離散化準位の電子)との中間に位置するナノ粒子の光学特性を研究する。それにより、高調波発生のメカニズムに新たな知見を与えることができると期待される。
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https://www.scl.kyoto-u.ac.jp/~opt-nano/