研究課題/領域番号 |
18H03683
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
木村 昭夫 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 教授 (00272534)
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研究分担者 |
谷田 博司 富山県立大学, 工学部, 准教授 (00452615)
田中 新 広島大学, 先進理工系科学研究科(先), 准教授 (70253052)
井村 健一郎 広島大学, 先進理工系科学研究科(先), 研究員 (90391870)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 非共型空間群 / スピン・角度分解光電子分光 / ディラック線ノード半金属 / 強相関電子系 / デュアルフェルミオン法 / 非エルミート性 |
研究実績の概要 |
代表者の木村と分担者の谷田の実験班は、非共型結晶LaCoSiやCeCoSiについて、軟X線および真空紫外領域の放射光を用いた角度分解光電子分光(ARPES)を行い、フェルミ面やバンド構造、Ce 4f電子の振る舞いに関する情報を得た。さらに、CeCoSiと同じ非共型空間群に属するLaMnSiおよびCeMnSiの単結晶合成に世界で初めて成功した。結晶のサイズはまだ小さいものの、LaMnSiについて物性測定を行ったところ、293 K以下で反強磁性秩序を示すことを、磁化、比熱、電気抵抗率により確認した。結晶構造は中心対称性のある空間群に属すが、磁気秩序に伴って空間反転対称性の破れている可能性がある。さらに、代表者の木村は、Co2MnGa薄膜について放射光スピン分解ARPESを行い、多数スピンバンドの交差点がちょうどフェルミ準位に一致することを明らかにし、その高い横熱電効果がベリー曲率に由来することを明らかにした。その他、Co2MnGeについて少数スピンバンドだけがエネルギーギャップを持つハーフメタル性の実験的な証明、相変化材料として知られるGeSb2Te4についてトポロジカル表面状態を観測し同物質がトポロジカルに非自明なバンド構造を有することを明らかにした。分担者の田中と井村から構成される理論班は、非共型な結晶対称性を持つ強相関系の電子状態をトポロジカルな観点から記述するためにデュアルフェルミオン法による計算コードの開発を行った。まずは同手法を用いて、強相関系の典型物質である銅酸化物超伝導体に適用し、その擬ギャップ状態、反強磁性揺らぎ、リッフシッツ転移、超伝導状態の関連を明らかにする目的で、2次元正方格子ハバードモデルに対し、有限温度の場合について、スペクトル関数およびフェルミ面のオンサイトクーロン相互作用、電子密度、次近接ホッピング依存性について系統的に調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代表者の木村は、非共型結晶LaCoSi, CeCoSi良質単結晶に加え、非共型空間群に属する超伝導体ZrPSeについても放射光ARPESの測定を行ない、明確なバンド構造の観測に成功し現在解析を進めている。さらに分担者谷田が作成した、LaMnSi, CeMnSiについてもARPES測定を行なっていく。分担者の谷田は、CeCoSiに続き、RMnSi(R=La,Ce)の単結晶合成に初めて成功した。ただ、後者はサイズが十分ではない。条件の最適化を図るとともに、関連するPrMnSiやNdMnSiの単結晶合成を試みている。CeCoSiについては、予想を上回る勢いで共同研究の輪が急速に広がっており、論文も幾つか出版された。新規の共同研究者へサンプルを供給するべく、CeCoSiの単結晶合成を集中的に進めている。理論班は、非共型な結晶構造をもつ強相関電子系へ適応するため、現在用いているデュアルフェルミオン法の計算をするプログラムを1軌道の場合から多軌道、多サイト系へ拡張する必要があるが、まだ開発半ばである。しかし、多軌道系の2体グリーン関数の計算方法については、前年度に改良を行い、計算をより高精度かつ安定に行えるよう、準備ができている。
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今後の研究の推進方策 |
代表者の木村を中心に非共型な空間群を有す希土類化合物に焦点を絞り、高輝度放射光やレーザー光を励起光源とした角度分解光電子分光装置や高効率・3次元スピン角度分解光電子分光装置を用いて、非共型の結晶対称性に起因するバルクのディラックコーンやディラック線ノードに加え、トポロジーの指標となる表面バンド構造や運動量空間での特異な3次元スピン構造の直接観測を行なっていく。分担者の谷田は、RMnSiの単結晶合成の最適化を図る。原料の仕込み比は、同じ構造でも遷移金属サイトの違いによる化学的性質の違いからか、RCoSiとはかなり異なることがわかってきた。仕込み比を様々に変えた試料合成を集中的に進める。また、さらに研究の舞台を広げるべく、周期表でMnとCoの間に位置するRFeSiについても、同様に単結晶合成を試みる。理論班は、デュアルフェルミオン法の計算を多軌道、多サイト系へ適応するためのソフトウエア開発が遅れているため、できる限りこれを早く完成させ、非共型な結晶対称性を持つ強相関系の電子状態の計算を可能にする。また、これと並行して、デュアルフェルミオン法を用いて光学励起による遷移過程を取り入れたスペクトルの理論計算を展開する。
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