研究課題
代表者の木村と分担者の谷田の実験グループは、非共型結晶LaMnSi、CeMnSiについて軟X線および真空紫外領域の放射光を用いた角度分解光電子分光(ARPES)を行い、特徴的なバンド構造を捉えた。また、得られたバンド構造が反強磁性相を仮定した第一原理計算でよく再現されることがわかった。分担者の谷田は、LaMnSiの基礎物性を単結晶を用いて初めて測定し、TN=293 K以下で反強磁性(AFM)秩序をもつこと、電気抵抗にはTNでギャップ構造のあることを明らかにした。伝搬ベクトルはq=0のため、超格子ギャップでは原理的に説明できない。AFM秩序による映進操作の消失によってゾーン境界の縮退が解けるという、非共型特有の電子構造に由来した現象であることを提案した。これは新しいギャップ形成機構で、我々の知る限り他に例はない。代表者の木村は、超伝導体ZrP2-xSex, HfP2-xSexについて放射光ARPESを行い、P正方格子に由来する線ノードを観測した。Pの正方格子がグライド面となりバンドの折り返しによってエネルギーギャップのないディラック線ノードが形成されていることがわかり、正に非共型空間群特有のバンド構造を捉えることができた。分担者の田中と井村から構成される理論グループは、強相関系の典型物質である、銅酸化物超伝導体のストレンジメタル状態と擬ギャップ状態の関係について、次近接ホッピングまで考慮した正方格子はバードモデルについて、Lanczos 厳密対角化法を有効アンダーソンモデルのソルバーとして用いたデュアルフェルミオン法を用いて調べ、 この系のストレンジメタル状態と擬ギャップ状態の両方が反強磁性的な揺らぎに起因することが判明した。 また、磁気的量子臨界点近傍の電子濃度のみでなく、比較的広い範囲の電子濃度について抵抗率が温度に比例するストレンジメタル状態となることもわかった。
2: おおむね順調に進展している
代表者の木村が中心となって行った非共型超伝導体ZrP2-xSexの放射光ARPESによるディラック線ノードの観測に関する成果が論文として掲載された。その成果は、Physical Review BのEditor's suggestionに選定された。また大学院生が日本物理学会(領域4)にて発表したところ、物理学の発展に貢献する成果として評され学生優秀賞を受賞した。ZrサイトをHfに置き換えたHfP2-xSexについても実験を行い、その結果を日本物理学会で発表した。Q=0の反強磁性体LaMnSi, CeMnSiのARPES測定による結果も国内外の会議で発表をした。2020年度に得られたLaCoSi,CeCoSi単結晶のARPESの結果について解析を進め現在は投稿論文を執筆中である。分担者の谷田は、強相関電子系国際会議SCESで、CeCoSiと関連する111系化合物の格子定数や結晶構造の観点から、隠れた秩序と電子相関についてポスター発表した。これが高く評価され、ベストポスター賞に選定された。日本物理学会の第77回年次大会では、CeCoSiの隠れた秩序についてのシンポジウム講演も行った。また、LaMnSiの物性と非共型結晶に特有のギャップ形成についてまとめた論文をJPSJに発表した。分担者の田中は、非共型な結晶構造をもつ強相関電子系へ適応するため、現在用いているデュアルフェルミオン法の計算をするプログラムを1軌道の場合から多軌道、多サイト系へ拡張する作業を行なっている。また、ARPESと精密な比較できるように、スペクトル関数の計算方法の改良を行なった。 この方法を用いて、銅酸化物超伝導体の擬ギャップ状態、フェルミアーク、ストレンジメタル状態等についての議論を行い、現在投稿論文を執筆中である。
代表者の木村は非共型超伝導体ZrP2-xSex, HfP2-xSexやRMnSi (R=La, Ce)について高輝度放射光やレーザー光を励起光源とした角度分解光電子分光装置や高効率・3次元スピン角度分解光電子分光装置を用いて、非共型の結晶対称性に起因するバルクのディラックコーンやディラック線ノードに加え、トポロジーの指標となる表面バンド構造や運動量空間での特異な3次元スピン構造を直接観測を行なっていく。分担者の谷田は、ごく最近、関連物質のCeFeSiの単結晶合成に初めて成功した。まずは基礎物性によりキャラクタリゼーションを行う。これで、一連の非共型結晶CeTSi(T=Mn,Fe,Co)の単結晶合成に成功した。多彩な物性と電子構造の関係を俯瞰的に系統的に明らかにすべく、ARPES実験に向け試料準備を進める。また、CeMnSiが磁場中での異常な振る舞いを発見した。検証を重ね、論文化を急ぐ。分担者の田中は、現在用いているデュアルフェルミオン法の計算をするプログラムを1軌道の場合から多軌道、多サイト系へ拡張し、非共型な結晶構造をもつ系について、フェルミ準位近傍のスペクトル関数を正確に計算できるようにする。さらに、これを用いてディラック電子系のスペクトル関数が電子相関によってどのように変化するか調べる。
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すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 5件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (39件) (うち国際学会 13件、 招待講演 3件)
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