研究課題/領域番号 |
18H03686
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
井上 公 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (00356502)
|
研究分担者 |
山田 浩之 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 研究グループ長 (00415762)
渋谷 圭介 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (00564949)
矢嶋 赳彬 九州大学, システム情報科学研究院, 准教授 (10644346)
浅沼 周太郎 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (30409635)
押川 正毅 東京大学, 物性研究所, 教授 (50262043)
白川 直樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 総括研究主幹 (60357241)
富岡 泰秀 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 上級主任研究員 (60357572)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ニューロモルフィック / 強誘電金属 / 強誘電体 / 強誘電量子臨界点 / 超伝導 / リーク付き積分 / ニューラルネットワーク / 電界効果トランジスタ |
研究実績の概要 |
本研究は物性物理の基礎研究と、ニューロモルフィック素子/回路の研究に同時に取り組むことで、その協奏効果からこれまでになかった考え方が誘発されることを期待しています。本年度の物性基礎研究の取り組みは、SrTiO3のSrをCaおよびBaで置換して強誘電体化した試料に、TiをNbで置換してキャリアをドープした単結晶試料を作製し、強誘電と超伝導の関係を調べました。通常の考え方では、キャリアが存在すると誘電分極が遮蔽されてしまうので、強誘電体にはなりえません。しかし遮蔽を十分に行えないほどにキャリア濃度が薄ければ、強誘電体のような長距離秩序をもった金属状態がぎりぎり出現する可能性があります。しかし「強誘電的な長距離秩序」というのは、結晶の空間反転対称性が破れた状態だといえますので、キャリアと格子(フォノン)の結合は弱くなります。つまりSr(Ti,Nb)O3よりも(Sr,Ba)(Ti,Nb)O3の方が超伝導転移温度は小さくなると考えられていたのです。しかし我々の得た結果は驚くべきもので、これまでにSrTiO3関連の系では誰も観測したことのない0.74Kという高いTcを得ることができました。現在、さらに詳細な実験を行っているところです。このような興味深い物性を示すSrTiO3の単結晶表面に元素置換ではなく電界効果によってキャリアを誘起すると、電界効果トランジスタ(FET)として動作します。我々はこれを用いたニューロモルフィック素子と回路の研究にも取り組んでいます。このFETのゲートにパルス電場を印加するとドレイン電流がリーク付き積分型の変化を示しますが、本年度はこれをSrTiO3バルク中での酸素欠損のドリフトと拡散を考慮したモデルで説明することに成功しました。さらにこのSrTiO3 FET素子をFPGAで仮想配線して、小規模ニューラルネットワークの電子回路を作製することにも成功しました。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度予定していた研究のうちのいくつかは、コロナ禍の影響で実行できずに終わりました。NbドープしたSrTiO3単結晶のSrをCaで置換した試料で実際に空間反転対称性の破れた状態が出現しているのかを調べるために予定していた光学的第二高調波発生(SHG)の観測実験は延期することになりました。千葉大の共同研究者に依頼したのですが、大学は学生がいなくなったり入構できなくなったりして大きな影響を受けたようです。来年度以降に期待していますが、KEKの放射光施設でやってもらえないか、他のルートも当たってみることにしました。SrTiO3 FETに関しては、ゲート印加でSrTiO3表面を2次元金属化し、近藤効果・磁気抵抗・ホール効果のゲート電圧・角度・磁場・温度依存性を精密に測定する研究と、さらに、絶縁体から2次元金属に相転移が起こる際のチャネルの変化(均質か不均質か)を、走査型SQUID顕微鏡によるチャネル電流分布の直接観測によって明らかにする研究をイスラエルのバル=イラン大学の共同研究者に依頼していたのですが、こちらもコロナ禍で実験ができなくなり、ほぼ進展がありませんでした。後者のSQUID顕微鏡に関しては「不均質だ」という報告をもらいましたが当初想定していたよりも装置の空間分解能が悪く、これ以上の実験継続は無理だと判断しました。前者の2次元金属については強い要望があるため来年度も試料を送付して共同研究を続けますが、我々も並行して実験を行います。しかしながら、産総研サイトに関してはコロナ禍の影響は最小限だったので、研究は前項で報告したように順調に進展し、強誘電超伝導の新たな展開が得られ、シミュレーションではなく実際の素子で小規模ニューラルネットワークの電子回路を作製することにも成功しました。回路構成によってニューロン発火の連鎖がパターン化するのかの検証のみが来年度に持ち越しになりました。
|
今後の研究の推進方策 |
前項で述べたように、コロナ禍のために予定外の順延や遅延を余儀なくされた研究があったため、来年度は、再度それらの達成を目指すことにします。ただし今後もコロナ禍の影響で外部の共同研究、特に外国との共同研究が困難になる可能性があります。そこで、それらの研究からのフィードバックが得られなくても、本研究を進展させていけるようなプラン作りが今後は大切になってくると考えています。SHGの観測で直接的に強誘電金属の証拠を掴もうという実験が、もし来年度も進展がみられなかった場合でも、その補償として、例えば低温でのX線による構造解析でキャリアドーピングと構造との関係を調べて、間接的な検証を行うことができるのではないかと現在は考えており、そのような2次的または間接的な検証を行うプランを調整中です。SrTiO3 FETの2次元金属が示す近藤効果と異常ホール効果に関して、ゲート電圧と温度依存性の精密測定、とくに極低温での測定が必要であることは当初からの課題ですがこれに関してもなかなか進展がありません。これは、素子の特性におよぼす、温度履歴、浮遊容量、ノイズなどの影響が少なくないため実験が非常に難しいからです。そこで、そのようなことに精通している外国のグループに依頼して共同研究を進めていたのですが、自分たちでも同様の測定を行えるようにしていこうと現在は考えています。そして、これらに関する実験結果を理論研究の材料として供給し、この科研費のグループ内で、より有意義な議論が行えるようにしたいと思います。そのSrTiO3 FET素子のニューロモルフィック応用として小規模ニューラルネットワーク回路を作製できたのは予想を超える進展でしたが、今後はその延長で計算機によるシミュレーションも援用しながら、ニューロン発火連鎖がアトラクタを形成するのかの検証を行うための基盤づくりを遂行していきます。
|