研究課題/領域番号 |
18H03691
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
田中 隆次 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, グループディレクター (30321780)
|
研究分担者 |
貴田 祐一郎 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 研究員 (70553486)
田中 義人 兵庫県立大学, 理学研究科, 教授 (80260222)
橋本 智 兵庫県立大学, 高度産業科学技術研究所, 准教授 (80285337)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 自由電子レーザー / 短パルスレーザー / 時間同期 / 蓄積リング / テーパーアンジュレータ / 放射光理論 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、自由電子レーザー(FEL)のパルス長を理論極限である単一サイクルにまで圧縮する新たな発振原理の実証を目的とする。2020年度までに原理実証実験に必要な各種機器の開発や整備が完了し、2021年度に本格的な実証実験を開始し、以下の成果が得られた。 (i)シードレーザと電子ビームを空間的かつ時間的に一致させるための手法を確立した。具体的には、電子ビームが放出する自発放射光とシードレーザを集光することで上流側アンジュレータ(モジュレータ)における位置を間接的に評価し、集光点が一致するようにシードレーザの入射条件を調整した。また、ストリークカメラを用いて両社の時間分解スペクトルを測定し、これらのタイミングが一致するように外部トリガのタイミングを制御した。これらの結果、電子ビームにマイクロバンチを形成することに成功し、シード―レーザの波長800nmの2倍波である波長400nmにおいてコヒーレント光の発生を確認した。 (ii)中空ファイバー及びチャープミラーを最適化することによりシードレーザを広帯域化・短パルス化した条件においてコヒーレント光の発生を確認した。さらに、アンジュレータの周期数を半分とした条件でコヒーレント光のスペクトル計測を行い、周期数の減少に伴って広帯域化されている(全周期を利用した場合に比べてほぼ倍のバンド幅)ことを確認した。 (iii)上記の実験及び計測と並行して、本研究課題で実証を目指す発振原理に基づき、遅延時間が高精度に制御可能な2つの孤立モノサイクルアト秒パルスを生成する新たなFEL発振手法を考案し、誌上発表[1]を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題3年目である2020年度までに基盤機器の整備や調整が完了し、2021年度に本格的な実証実験を開始した。新規に構築した診断系を用いることにより、電子ビームに対するシードレーザの相対時間及び空間位置を高精度に制御する手法を確立し、両者の相互作用に伴うマイクロバンチの誘起とコヒーレント光の生成に成功した。蓄積リングにおけるシーディングとコヒーレント光の生成という成果自体は先行する研究開発で多数報告されているが、今回我々の実証実験で確認された、「アンジュレータ周期数の増加に伴うコヒーレント光の狭帯域化」という現象は、シードレーザが十分に短パルス化されていること、さらにアンジュレータのスリッページによりパルスが伸長していることを示唆する。我々の知る限り、この現象を実験的に確認したのは今回が世界で初めてであり、重要な成果であると考える。また、上記の実証実験の成果と並行して誌上発表を行った、チャープマイクロバンチによるダブルパルスの生成手法は、アト秒パルスによるポンプ・プローブ分光等の応用に繋がるものであり、本研究課題が実証を目指す新たなFEL発振原理の実用化に向けた重要なステップである。これらの進捗状況から、本研究課題はおおむね順調に進展していると自己評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終年度である2022年度では以下の項目を実施し、最終目標であるFEL短パルス化原理の実証を目指す。 (1)2021年度に生成に成功した短パルス(数サイクル)シードレーザによるコヒーレント光の特性評価、特に自己相関法などによるパルス長計測を行い、スリッページによるパルス伸長の効果を直接的に確認する。 (2)モジュレータ・ラディエータのギャップを関数としてコヒーレント光の強度を計測し、短パルスコヒーレント光生成のためのテーパー値の最適化を行う。 (3)上記で決定したテーパー値に設定した条件で生成されたコヒーレント光のパルス長を計測する。コヒーレント光が生成されない場合はこれが確認されるまで段階的にテーパーを緩和する。 (4)(3)と逆の勾配でテーパーを設定した条件でパルス長を計測する。 上記(3)及び(4)の条件におけるコヒーレント光のパルス長を比較し、最適なテーパーに設定した場合にスリッページによるパルス伸長の効果が抑制されていることを確認する。
|