研究課題/領域番号 |
18H03692
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
上野 秀樹 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (50281118)
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研究分担者 |
山本 文子 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (50398898)
佐藤 渉 金沢大学, 物質化学系, 教授 (90333319)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | その他の量子ビーム / 小型量子ビーム発生技術 / 磁気共鳴 / 原子・分子 / RIプローブ / 原子核(実験) |
研究実績の概要 |
本研究では高核スピン偏極RI ビームの実現と物質科学研究への応用に向け、β線検出型超高感度 NMR (β-NMR) 測定を通じた新たな物質科学研究の手法を開拓すると共に、その本格的な展開に必要となるRI ビーム用原子線共鳴法の原理実証を行うのが目標である。 後者のRI原子線共鳴法の原理実証については、まずは前年度、構築と動作確認まで進んだイオントラップ装置の開発をさらに進め、分割電極の導入によるリニアポールトラップシステムの開発を行った。ヘリウムガス圧、トラップ電場の印加電圧及び時間制御に関する基礎データを取得し、システム下にあるRbイオンの挙動に関する理解を深め、最終的にはイオン引き出し、つまり中性化はしてないものの、目標とするイオンの前方射出を確認することができた。トラップ電場下のイオンの挙動に関しては興味深い結果が得られたため、今後シミュレーションと比較検討するなどして結果を別途取りまとめる方針である。次に原子線として利用できるまでRbを冷却する必要があることから、開発を一歩進め、Srを媒介としたRbイオンの共同冷却のR&D研究に着手した。まずはYAGレーザーによる ablation 法に基づくRbイオン源を構築し、イオン引き出しができるようになった後、Sr単独でSrイオンのトラッピングを確認した。並行しこれをレーザー冷却するためのECLDレーザーの準備を行い、Srイオンのレーザー冷却に着手するところまで開発を進めた。 偏極RIを用いたβ-NMR物性研究については、その有効性実証に向けてCuOを用いたβ-NMR分光測定を実施するのが本研究の目標である。これに向け、CuOの単結晶作製と評価を進めてきている。β-NMRで得られる情報を比較検討するため、当該年度は、O-17同位体濃縮CuO単結晶の作製を行った。作製したCuOは、X線回折から単結晶性を確認することができたので、現在NMRなどを実施し物性データの測定を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RI原子線共鳴装置については、前年度Rbを用いたイオントラップのシステム構築とRbイオンのトラップの確認まで達成したところであったが、当該年度はこれをリニアポールトラップに高度化し、イオンの運動を制御してトラップしたイオンの前方射出が可能となった。また、ガス種・ガス圧を変えて中性化効率の定量測定を行い、最適化も図った。あとはSrイオンを媒介とするイオンの共同冷却に成功すれば、効率の面で改善の余地があるものの原理的にはRI原子線共鳴法の適用の道が拓けたことになる。そこで共同冷却の媒介となるSrイオン源の整備とイオントラッピング、Srイオンの冷却用レーザーの整備を行い、共同冷却に向けたR&Dに着手する段階まで来ている。 β-NMR物性研究については、ここまで、酸素RIのプローブ開発として行った実験で、核磁気モーメント及び核電気四重極モーメントの測定に成功しており、また、新たなβ-NMR法研究を可能とする核スピン整列RIビームを利用した新手法の開発にも成功している。CuOの結晶作製も順調で、NMRに関連した物性諸量をあらかじめ調べるためのO-17同位体濃縮CuO結晶の作製も順調に進んだ。これらの結果を基にCuOのβ-NMR分光実験の準備を進めている。 以上、一部当初予定に比べやや遅れが生じているものの、計画全体としては予定に沿って開発が進められている。
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今後の研究の推進方策 |
ここまで得られた成果を論文にまとめる他、RI原子線共鳴装置については、Srのレーザー冷却とそれを用いたRbの共同冷却を達成し、更には中性化を経由した低速中性Rb原子の射出に取り組む。また、理研RIBF施設のRIPS装置を用い、偏極O-21ビームを用いたCuOのβ-NMR分光実験を実施する。この実験に必要となるNMR関連物性諸量の取得と、得らる結果を比較検討するため、O-17同位体濃縮CuO結晶に関するオフラインでの物性測定も行う。これらを経て、高偏極RIビーム生成の道筋をっけ、それを利用したβ-NMR物性研究という新たな研究の開拓を目指す。
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