ダークマター(DM)は、宇宙の観測から存在は確実なものであり、未知の素粒子として探索が続けられてきた。本研究では、イタリアGran Sasso研究所に於ける国際共同研究XENONnT実験に参加し、建設・実験の遂行、データ解析を通じDM の発見を目指す。本年度はコロンビア大学と共同研究し、世界最大級約10トンの液体キセノンの純化を行い、世界最高の純度を実現する大きな成功を収めた。このことで、本研究期間後にデータを集積することにより、暗黒物質と核子の散乱断面積への感度1.6x10-48cm2を実現する基礎を確立し、目標を達成した。
この感度到達のためには「液体キセノン中の電気陰性度の高い不純物」(不純物A)は信号の伝搬時に信号を弱めるためそれらを低減し、同時にDM探索のノイズとなる不純物「ラドン」(不純物B)を低減する必要がある。これらを実現するため、2種類のフィルターを用意し、特性に応じて使い分ける工夫を行った。1つ目は、大量のAを吸着できる一方、Bを大量に放出する性質のあるフィルタ。2つ目は、Aの吸着量は少ないが、Bを殆ど出さないフィルタである。Bであるラドンは3.8日の半減期で崩壊してしまうことに注目することで、最初に1つ目のフィルタで一気にAの純度をあげ、2つ目のフィルタに交代し、Bも含めて2種類の不純物を同時に低減することに成功した。Aの不純物量は、液体キセノン中の電子寿命で表現できるが、目標3ミリ秒に対しおよそ13.5ミリ秒を達成し、これまでより20倍改善した。Bの量も、目標1マイクロBq/kgに対しおよそ1.7マイクロBq/kgを達成し、さらに目標達成の目処も立っている。これらによりXENONnT実験による感度を実現できる液体キセノンの純度を達成できたといえる。
なお、この成果をまとめた博士課程の学生が東京大学の博士号を取得することができ、教育にも貢献した。
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