研究課題/領域番号 |
18H03699
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
中 竜大 東邦大学, 理学部, 講師 (00608888)
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研究分担者 |
久下 謙一 千葉大学, アイソトープ実験施設, 名誉教授 (10125924)
佐藤 修 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 特任講師 (20377964)
田中 雅士 早稲田大学, 理工学術院, 准教授(任期付) (30545497)
吉田 斉 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (60400230)
長尾 桂子 岡山理科大学, 理学部, 講師 (90707986)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / 超微粒子原子核乾板 / 方向感度検出 / 中性子 |
研究実績の概要 |
本研究は、独自開発した超微粒子原子核乾板(Nano Imaging Tracker : NIT)によるナノスケールの粒子飛跡検出技術を駆使した新たな暗黒物質探索実験を推進することを目的にしたものであり、本年度においてイタリア・グランサッソ研究所における実験体制の構築ならびにデバイス開発および名古屋大学、東邦大学において光学顕微鏡による読み取りシステムの高度化を進めた。本年度においては、グランサッソ研究所におけるデバイス製造から一連の実験システムの構築を行い、またそれに伴うデバイス基盤の選定、よりバックグラウンド蓄積を低減したデバイスハンドリング手法の開発、ならびにデバイス温度のコントロール下でのラン実証試験を行った。同時に、事象解析システムの高速化研究を進め、立ち上げ当初から40倍の速度向上を実現することによって、数グラムスケールのデバイスにおける定常的なデータ取得が可能となった。これらのシステムおよびデバイスの検出能力の実証として中性子による反跳原子核の飛跡検出能の評価を行い、30keV以上の炭素反跳、10keV以上の陽子反跳が検出できることを示し、名古屋大学において地上における赤道儀を用いた暗黒物質の方向性検出実験を行った。これによって10GeVの暗黒物質に対して方向情報を用いた初めての断面積上限を導出することに成功した。また、sub-MeV帯の中性子の測定における研究も進め、新たなアルゴリズムによるデータ取得によって、従来の検出器では難しいsub-MeV帯の中性子の観測ができることを示し、本格的な中性子の測定を行える体制を構築した。また、並行して進めている液体シンチレータによる中性子測定開発においては、検出器内部の放射性バックグラウンド低減に向けた開発を分担者である田中、吉田が進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新たな事象選別法として機械学習を用いた積極的な飛跡信号らしさの検出アルゴリズムの構築を行い、これまで問題となっていたデバイス内部に混入した不純物の影響が劇的に低減されたことによって本格的な物理解析が可能となった。これによって、バックグラウンド推定が明確にできるようになり、それに伴う実験環境およびデザイン構築、較正実験の方向性が明確になった。また、データ解析におけるソフトウェアの構築によって、よりスムーズに解析ができる体制が整ってきたことによってさまざまな事象における物理的議論が可能となり見通しがよくなった。さらに、中性子反跳陽子事象の検出に特化したアルゴリズムを実装した解析システムの構築を行い、中性子事象における高精度な測定が可能になった。これにより、よりエネルギーレンジを拡大した事象解析が可能となった。現象論的議論として、宇宙線によって加速される暗黒物質の検出可能性についても検討を進めており、分担者の長尾らと共に詳細な運動学に基づく検出可能性の検討を開始することでさまざまな物理モデルを想定した将来計画を開くことができるようになった。 液体シンチレータによる中性子測定開発においては、ステンレス製の液体シンチレータ容器の内面を複合電解研磨することによりRnの表面放出を抑えた低放射線バックグラウンド中性子検出器を開発した。含容する液体シンチレータ中のウラン、トリウム系列崩壊核種をはじめとする重金属イオン不純物を極限まで低減するため、液々抽出法(超純水との混合・分離抽出による溶媒の高純度化)とガスパージ法(高純度窒素ガスのバブリングによる溶解放射性希ガスの低減)を行い液体シンチレータ中の放射性不純物を低減する手法を確立することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度開発を進めたきた解析法を用いた物理事象解析を進めるととともに、顕微鏡画像解析における精密化を進めることで、より精密な事象解析を進める。特に、グランサッソ研究所における低バックグラウンド実験を進めることで本格的な暗黒物質探索実験を推進していく。特に、さまざまな条件下での観測実験を行うことで、背景事象の理解を精密に進めていく。並行して、デバイスの検出性能の較正を日本国内においても進めていく。 これに伴い、バックグラウンド推定の制度を上げるとともに、それに対する検出効率の較正、ならびに暗黒物質検出実験としての高度化を進めていく。並行して、グランサッソ研究所におけるsub-MeV帯の中性子観測実験を進めていく。 事象解析におけるさらなる情報取得も進め、特に、局在表面プラズモン共鳴を用いた解析システムを立ち上げる。特に、マルチスペクトルのカメラを搭載した新たなシステム構築を行うことで、現在の飛跡の幾何学的情報だけではなく、その内部に含まれるナノスケールの構造情報を取得することは、さらなる事象識別能の向上にとって重要であり、開発を強化していく。
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