研究課題/領域番号 |
18H03701
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中家 剛 京都大学, 理学研究科, 教授 (50314175)
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研究分担者 |
福田 努 名古屋大学, 高等研究院(理), 特任助教 (10444390)
中平 武 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (30378575)
早戸 良成 東京大学, 宇宙線研究所, 准教授 (60321535)
三角 尚治 日本大学, 生産工学部, 准教授 (80408947)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ニュートリノ / 反応断面積 / 原子核乾板 / 素粒子実験 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、加速器ニュートリノビームを使ったニュートリノ振動実験の感度向上のために、その主要な系統誤差であるニュートリノ原子核反応を正確に理解することである。T2K実験のニュートリノ測定器スーパーカミオカンデの標的は水である。よって、ニュートリノの水における反応断面積を高精度で測定することを目標としている。この目的のために、原子核乾板を積層構造に組み、その間に水を挿入したニュートリノ反応標的を開発したNINJA実験を実行する。2019年度は、当初予定していたビームデータ収集が加速器の故障により同年11月に延期された。このビームタイムに合わせて、当初予定していた(1)75kgの水標的と原子核乾板、(2)総数500チャンネルとなるシンチレータートラッカー、(3)磁場印加型ミューオン飛程検出器(B-MRD)、を設置してNINJA実験装置を完成させた。その後、宇宙線を使った実験装置のコミッショニングを経て、ニュートリノビームデータを取得した。このビームデータを解析することで、ニュートリノと酸素(水)の反応事象の高統計観測と精密測定が可能となる。ビームデータ取得後は、原子核乾板を取り出して現像し、画像データの解析を進めた。それと並行に、過去に記録した原子核乾板のデータを解析し、ニュートリノ事象再構成方法、原子核反応モデル選択方法、解析パラメータの調整方法を最適化した。原子核乾板のデータを用いた多重散乱法とB-MRDでの飛程長測定法を併用して、μ粒子の運動量を測定した。過去のデータの解析から、背景事象を見積もりニュートリノ反応事象の観測に成功した。またNINJA実験と並行して、T2K実験の前置ニュートリノ測定器のデータを使いニュートリノ反応事象を解析して、ニュートリノ原子核反応断面積の新しい測定結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初に計画していた実験装置を完成させ、ビームデータの取得に成功した。ただし、当初には予想していなかったJ-PARC加速器の故障により、ビームの予定が約半年間遅れた。この新しいビームの予定に合わせて検出器を製作し、必要な量のデータを無事に取得した。このデータ取得の遅延のために、データ取得完了後に必要な原子核乾板の現像と画像解析のための研究費を2020年度に繰り越した。この繰越により、2020年度に滞りなく物理解析を開始することができた。実験では、原子核乾板と水の標的部は、全9ユニットからなる設計で、合計75kgの大質量を実現している。この標的部分で観測された荷電粒子の飛跡に時間情報を付加するために、大面積シンチレータートラッカーと原子核乾板を使ったシフターを採用している。ビームタイムの前に宇宙線を使ってシンチレータートラッカーとB-MRDのコミッショニングを行い、十分な性能が出ていることを確認した。これらの装置を使って、2019年11月から2020年2月まで4.8×10^20 POT(#陽子/標的)のビームデータを取得した。このデータ量はニュートリノ反応の研究に必要且つ十分な量である。並行して、2018年度に取得したデータを活用して、ニュートリノ反応からの飛跡の再構成方法、荷電粒子の計測方法、粒子識別方法、運動量測定方法のプログラムを開発した。現時点で、プレリミナリーならが、ニュートリノ反応の観測と荷電粒子数分布が測定できており、国際会議や日本物理学会で発表している。 NINJA実験と共に、既に稼働しているT2K実験の前置ニュートリノ測定器で取得したデータを解析することで、ニュートリノ原子核反応の断面積を新たに測定した。T2K実験の結果は論文として発表している。
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今後の研究の推進方策 |
十分な量の実験データが取得できたので、今後は物理解析に注力していく。物理解析に必要なプログラムは、過去に取得したデータを利用して開発してきた。ニュートリノ反応からの飛跡を再構成し、反応点から発生している荷電粒子を計測し、その荷電粒子の識別と運動量測定を行うプログラムを完成させる。荷電粒子の中で、μ粒子に関しては原子核乾板の解析に加えて、B-MRDでの飛程の測定が必要で、原子核乾板、シンチレータートラッカー、B-MRDの総合解析を実現する。総合解析を行うことで、陽子飛跡検出の運動量閾値200 MeV/cを実現し、各種のニュートリノ反応(CCQE、2p2h、CC1π生成)事象の選別を行う。最終的には、その結果を使って、最適なニュートリノ原子核反応模型や核子構造因子パラメータを調べていく。 以上の結果を、ニュートリノ反応シシミュレーションプログラムNEUTに実装する。NEUTを改良することで、T2K実験におけるニュートリノ振動測定の系統誤差を削減し、ニュートリノ振動の高精度な測定を実現する。
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備考 |
ニュートリノ解説用のマンガ: https://www-he.scphys.kyoto-u.ac.jp/nucosmos/files/NC-pamph.pdf
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