研究課題/領域番号 |
18H03708
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
磯 暁 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (20242092)
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研究分担者 |
淺賀 岳彦 新潟大学, 自然科学系, 教授 (70419993)
川合 光 京都大学, 理学研究科, 教授 (80211176)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Dブレーン / 電弱対称性の破れ / 階層性問題 / 離散モジュラー対称性 / バリオン数非保存 / ニュートリノ / 多重臨界原理 / プランクスケール |
研究実績の概要 |
本研究では、階層性原理に基づく電弱対称性の破れの機構を、現象論的ボトムアップのアプローチ、弦理論などのトップダウンのアプローチの両面から調べることを目的としている。弦理論に基づくアプローチとして、回転するDブレーンを使った電弱対称性の破れ、および時空のトポロジーの量子揺らぎの二つの方法で、電弱スケール階層性の出現についての研究を行った。 超弦理論では、2枚のDブレーンが静止して平行に置かれている場合は超対称性により力は働かないが、互いに運動すると引力を生じることが知られている。本年度の主要な成果の一つは、互いに回転している場合の引力の詳細を調べ、束縛(共鳴)状態の存在の有無を調べるための計算手法を明らかにしたことである。特に、部分的モジュラー変換の手法を開発し、開いた弦(超対称ヤンミルズ理論)の1ループ振幅と閉じた弦(超重力理論)の重力相互作用の双方を部分的に足し合わせることで、弦理論スケールに比べて短距離から長距離までの広範囲でポテンシャルを高精度に導出した。 量子重力によるトポロジー揺らぎを考えると、「プランク長さ以下の揺らぎを積分して得られる有効理論のパラメーターは、宇宙の最終エントロピーを最大にするよう自動的に微調整される」という最大エントロピー原理が予想されるが、それが弦理論の構成的立場からどう示せるかを考察した。 ボトムアップアプローチとしては、モジュラーA4対称性とよばれる離散的な対称性を湯川結合に要請することで、ニュートリノの質量階層性と世代混合を説明できることを明らかにした。また、ここから得られた湯川結合定数は、宇宙バリオン数非保存を説明するためのレプトン生成機構と矛盾ないことも明らかにし、将来のニュートリノ実験での検証可能性を議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
階層性問題へ向けた弦理論からのアプローチとして、部分的モジュラー変換という新しい手法を開発することで、計算困難だった相互作用の詳細を明らかにすることができた。これにより、当初、弦理論の摂動計算を高次まで遂行することで求めようとしていた相互作用を、Dブレーン間の距離が(弦理論長さと比べて)短距離から長距離までの広範囲において、導出することができた。これは、これまでの手法より精度よい結果を与え、回転するDブレーンのダイナミクスを求める上で重要な結果である。また時空のトポロジー(ワームホール)の揺らぎから階層性問題にアプローチする見方は、当研究プロジェクトのオリジナルなアイディアであり、この見方に従って着実に研究は進展している。 より現象論的な方向性としては、コンパクト化に付随した離散モジュラー対称性と宇宙バリオン数生成量とのより一般的な関係の解明へ向けて、研究は着実に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
トップダウンアプローチでは、まず、これまでの研究で計算された相互作用ポテンシャルを使って回転するDブレーンのダイナミクスを明らかにし、弦理論における電弱対称性の破れと階層性問題の解決への道筋を考察する。また、別の可能性として、球面を含むカラビヤウ空間にコンパクト化された弦理論を考え、この球面に巻きつく高次元のDブレーンを考えることで、ゲージヒッグス統一模型を構築し、電弱対称性の破れを実現する模型も考察する予定である。これらと平行して、(1)行列模型による時空と物質、(2)プランクスケールとヒグスインフレーション、(3)ブラックホールの量子論、などに関しても、数値的および解析的な考察を並行して進める。 より現象論的なボトムアップアプローチとしては、まず、コンパクト化に付随したモジュラー対称性と宇宙バリオン数生成量とのより一般的な関係を解明する。また、プランクスケールの物理と電弱スケールの標準模型とを結びつける新しい物理が宇宙バリオン数にどの様に影響を与えるかを調べる。 3つ目としては、階層性原理の基づく標準模型を超えた素粒子模型が予言する、初期宇宙における電弱対称性の過冷却現象とそれに伴う熱的インフレーションの発生を利用して、アキシオン物理と宇宙背景輻射揺らぎのついての研究を行う。
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