研究課題/領域番号 |
18H03710
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
橋本 省二 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (90280510)
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研究分担者 |
大木 洋 奈良女子大学, 自然科学系, 助教 (50596939)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | インクルーシブ崩壊 / B中間子 / 格子QCD |
研究実績の概要 |
本研究計画は、B中間子のインクルーシブ崩壊振幅の評価に格子QCDに非摂動計算を応用する理論的枠組みを構築することを目指している。インクルーシブ崩壊とは、終状態を特定せずすべての可能な終状態について足し上げたものを表す。この過程に対応する構造関数は、光学定理によってB中間子の前方散乱行列要素(2つの演算子を挟んだ行列要素)の虚数部に関係付けられる。この行列要素の解析性を利用して格子QCDで計算可能な量と関係をつけることが、この研究計画の基本的なアイデアである。 平成30年度においては、格子QCD計算によって行列要素の計算を進め、複数の運動量移行についてデータを取得した。ただし、離散化誤差が大きくなり過ぎるのを防ぐため、ボトムクォークの質量は現実のものよりも軽く取って、手法の確立を優先することとした。 これと同時に、対応する摂動的計算の手法開発を進めた。これは、既存の摂動計算がどれだけの誤差をもつかを確認するためのもので、これまでの計算の信頼性を検証することを目的とするものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
格子QCDシミュレーションによって、インクルーシブ崩壊に対応する前方散乱行列要素を、複数の運動量移行の場合について計算を行った。B中間子を両側にもち、2つの演算子を挟んだ行列要素を計算することになるため、格子計算では4点関数の計算が必要になる。比較的大きな格子切断(3.6 GeV)をもつ格子(体積は48^3x96)で、角運動量について400サンプルのデータを集めた。この計算には筑波大学計算科学研究センターのOakforest-PACS大規模一般利用を使用した。 摂動計算の検証のため、対応する1ループ計算手法の開発を同時に行った。従来は崩壊振幅の計算が行われていたが、これを前方散乱行列要素に対応づける必要があり、そのためのコーシー積分の実行が必要である。トリノ大学のGambino教授と共同で、この計算に必要な1ループ積分の解析性に関する研究を進め、解析関数に現れる特異性と虚数部の同定を行って、必要な計算の準備を整えた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に行った1ループ積分の解析性に関する研究を基に、1ループ振幅の計算を行う。結果を対応する格子QCD計算と比較し、摂動展開と(重いクォークの質量をMとするときの)1/M展開の妥当性を検証する。 平成30年度に得られた格子QCD計算データを使って終状態として現れるD中間子の励起状態に関する研究を進める。当初の研究計画では想定していなかったことだが、ここで計算した前方散乱行列要素には通常の格子QCD計算では得ることが難しい軌道角運動量をもつ励起状態に関する情報が含まれている。この情報を取り出すことができれば、これまでのB中間子崩壊実験の解析で大きな不定性の原因になっているD中間子の励起状態への崩壊について何らかの制限が得られる可能性があり、そのためのデータ解析を進める。
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