本研究は、格子計算で得られたB中間子の構造関数に関する情報とインクルーシブ・セミレプトニック崩壊の実験データとを、構造関数の数学的な性質(解析性)を用いて結びつけることを主たるアイデアとして提案した。一方、本研究課題の開始後(2019年度)に、スペクトル関数の任意の積分を格子計算から評価する手法を新たに開発したことで、解析接続を実行することなく、インクルーシブ崩壊の崩壊振幅を直接計算する可能性が開けた。この手法は、スペクトル関数の積分を格子計算で得られるユークリッド空間における相関関数に帰着する近似式を構築することで、インクルーシブ崩壊の全崩壊幅を計算するものである。非物理的運動量領域の情報を必要としない点で従来考えていた手法よりも優れているため、研究計画をこの新しい手法の開発に移行することとした。 令和3年度(および繰越によって研究期間を延長した令和4年度)は、テスト的な格子計算の結果を解析して、インクルーシブ崩壊の全崩壊幅およびハドロン質量モーメント、レプトンエネルギーモーメントを評価した。計算結果を摂動QCDの計算の結果と比較することで、両方の手法の妥当性を相互に検証することができる。本研究では、スペクトル関数の積分に対して主としてチェビシェフ多項式を用いた近似を用いたが、最小2乗法にもとづく数値的な方法とも比較して、両者が無矛盾であることを確認した。現実よりも軽いボトムクォーク質量の場合について摂動計算と比較し、モーメント等も含めて一致することを確かめ、格子計算のほうがよい精度を得られることを示した。
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