研究課題/領域番号 |
18H03715
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
早川 岳人 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 東海量子ビーム応用研究センター, 上席研究員(定常) (70343944)
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研究分担者 |
大垣 英明 京都大学, エネルギー理工学研究所, 教授 (10335226)
加藤 政博 分子科学研究所, 極端紫外光研究施設, 特任教授 (30185871)
静間 俊行 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 東海量子ビーム応用研究センター, 上席研究員(定常) (50282299)
Koga James 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 光量子科学研究部, 専門業務員(任常) (70370393)
全 炳俊 京都大学, エネルギー理工学研究所, 助教 (80548371)
川瀬 啓悟 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 東海量子ビーム応用研究センター, 主幹研究員(定常) (60455277)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | デルブリュック散乱 |
研究実績の概要 |
QEDは古典電磁気学では予言できない(発生しない)様々な現象を予言している。その一つが、光子・光子相互作用である。光子・光子相互作用は最近になり、技術の進展により実験が可能になってきた。本科研費ではQEDにおける光子・光子相互作用の一つであるデルブリュック散乱の散乱振幅のみを実験的に求め理論計算値と比較する。一般に光子・光子相互作用の反応断面積は極めて小さいが、デルブリュック散乱断面積は他の過程より非常に大きい。デルブリュック散乱では、入射したγ線が原子核のクーロン場を相互作用して、実在粒子ないし仮想粒子を対生成し、直ちに対消滅することで散乱する現象である。エネルギーがほとんど変わらないγ線の弾性散乱の一種である。20世紀より、原子炉で生成された強力なγ線を用いて実験されてきたが、γ線の弾性散乱においてレーリー散乱などの他の弾性散乱との量子力学的な干渉のためデルブリュック散乱のみの振幅を求めることが原理的にできない。研究代表者等は、直線偏光したγ線により特定の角度でデルブリュック散乱の振幅のみを選択的に計測できる条件を理論的に発見している。現在、レーザーコンプトン散乱γ線として利用可能な施設の中で、UVSORの定常運転の電子エネルギーは750MeVであり、約10μmの波長のCO2レーザーを用いることで約1MeVのγ線を生成できる。1.022MeV以下でのみで発生する不確定性関係によって許される仮想的な過程のみを選択的に測定することが可能である。そこで、二酸化炭素レーザーを電子蓄積リングに入射しレーザーコンプトン散乱γ線を生成し、ターゲットに照射し散乱したγ線のエネルギースペクトルを計測した。実験状況に対して、GEANT4のシミュレーション計算を行った。また、合わせて光渦のコンプトン散乱、超新星ニュートリノ等を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度、電子蓄積リングの真空を保持するためにレーザーの入射口と排出口に、2重窓を設置した。二酸化炭素レーザーの試験も終わっていた。本年度は、1台の検出器を置いて、直線偏光二酸化炭素セーターをUVSOR-III電子蓄積リングに入射し、レーザーコンプトン散乱(LCS)γ線を生成した。レーザーは去年度より、直線偏光度を高めるとために、レーザーを蓄積リングのビーム面と同じ高さに設置して、上下のミラーによる転送を不要とした。レーザーは、蓄積リングの中ほどで焦点を合わせ、電子とのコンプトン散乱が多数回(連続的に)発生するようにした。LCSγ線のエネルギースペクトルは直径3.5インチ奥行き4インチの臭化ランタンシンチレーション検出器で計測した。このエネルギースペクトルから生成したγ線のフラックスを評価し、ほぼ理論予測と一致した。最大エネルギーは1MeVを対生成の閾値を下回った。ターゲットとして、当初の予定通りにスズのターゲットを用いた。スズより重い場合には、理論的にはデルブリュック散乱の高次の効果が出てくるためにスズを用いた。直線偏光面に対して平行な面に、1台の臭化ランタンシンチレーション検出器(直径3.5インチ奥行き4インチ)とGe半導体検出器(3インチ×3インチのNaIシンチレーターに対する相対検出効率130%)を設置してターゲットからの散乱γ線を計測した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、蓄積リングの真空保持は重要な課題であることが明確になった。既に、レーザーの入射と排出に2重窓を設置している。さらに、真空計のモニター等によるレーザーに対するインターロックを検討している。実験では、レーザーの直線の偏光面の角度偏光はこの実験で用いる大出力レーザーでは注意深く行うことが必要であることが判明したので、検出器を偏光面に対して水平な面と垂直な面に設置する(前方からの角度はそれぞれ70度)と同時に、偏光面の変更を行うことで系統誤差を小さくする手法で実験を行う。また、ないはずであるが、ターゲットの物質に固有の現象を避けるために、異なる元素のターゲットでも合わせて実験を行うことで検証する。
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