研究課題/領域番号 |
18H03719
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
長田 哲也 京都大学, 理学研究科, 教授 (80208016)
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研究分担者 |
入部 正継 大阪電気通信大学, 工学部, 教授 (60469228)
山本 広大 京都大学, 理学研究科, 研究員 (70738319)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 赤外線天文学 / 太陽系外惑星探査 / 直接撮像観測 / 装置開発 / 極限補償光学 / FPGAによる多入出力で高速な制御 / 光学的波面形状の直接計測 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、せいめい望遠鏡へ搭載する太陽系外惑星撮像用の高コントラスト装置を開発し、それを用いた観測をすること、およびこれを実現するためのあらたな技術を開発することである。 本年度では前年度に引き続きこのうち装置開発と技術開発を行った。装置開発として1)望遠鏡搭載用の実機光学系の設計と2)温調チャンバーの開発を行い、技術開発として3)FPGA制御装置と4)点回折干渉計型波面センサの開発を行った。 1)本研究で開発する観測装置をせいめい望遠鏡へ搭載する際に必要な入射光学系の設計と可変形鏡保持光学系の製作を行った。赤外カメラでもモニターする。2)本観測装置では、波面センサとコロナグラフ装置の間の非共通光路で生じる測定エラーがコントラスト性能を低下する。我々はこれを解決するために、観測中に非共通光路の温度を安定させるようナスミス台補強架台を設置しその中に温調クリーンパネルの温調チャンバーを置いた。チラーで冷却する。3)本観測装置では、コントラスト性能を満たすために、492x2chの波面情報から492素子のアクチュエータの司令値を制御アルゴリズムに従って、5-10kHzのループ速度で計算しなければならない。従来のCPUでは約300μ秒かかり、ループ速度の上限が3kHzとなっていた。FPGA装置を用いる事で、計算による遅延が11μ秒程度まで低減可能で90kHzのループまで対応できることを確認した。4)従来よりも高速、高精度な波面計測が必要となる。これを実現するために直接波面形状の計測が可能な点回折干渉計型波面センサを天文用途に新たに開発した。 1)および3)と4)においては当初計画通りの開発が進められた。2)に関しては望遠鏡上で要求される静穏な環境に適応した温調チャンバーの設計製作が長引き、翌年度に作業を繰り越したが、目的を満たすチャンバーをせいめい望遠鏡へ設置することが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では装置開発として1)望遠鏡搭載用の実機光学系の設計と2)温調チャンバーの開発を行い、技術開発として3)FPGA制御装置と4)点回折干渉計型波面センサの開発を行った。 1)光学系設計では、装置と望遠鏡光学系を接続する入射光学系の設計と、前年度設計した低次補正光学系の製作を行った。後者はこれまでの実験光学系に組み込み、必要な性能を満たすことを確認した。2)温調チャンバーでは、すでに導入している水冷定盤を覆う断熱室を設計製作した。熱流入量と湿度コントロールの観点から室内を年間20度に温調可能な断熱室を製作、設置し、水冷定盤と組み合わせることで、光学系が要求する仕様を満たした温度環境を維持出来ると思われる。振動を極力抑え、廃熱も行わない系を設計することに時間が掛かり、これらの作業は本年度では完結するのが困難であったため次年度に繰り越した。次年度中に設計、製作を完了し、せいめい望遠鏡へ設置することが出来た。3)前年度までに開発した試作設計のFPGAを用いて、波面センサで取得したデータから可変形鏡の変形データを計算するシステムを構成出来た。4)波面センサでは前年度、当初想定していた光学素子では十分性能を満たす波面センサを構成出来ないことが分かったため、新方式の光学素子による波面センサを新たに考案、その原理実証を行った。その結果、当初の目標を達成可能な波面センサを構成出来ることを確認した。新方式の光学素子の製作のために東京工業大学の松谷氏と共同で開発を行うことを決定した。
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今後の研究の推進方策 |
今後2年をかけて引き続き装置開発と技術開発を行い、その後の望遠鏡搭載、そして観測を目指して研究を推進していく。具体的には次の一年間で光学系構造の完成、極限補償光学系としての制御試験を行い、二年目に装置全体の系外惑星撮像性能の評価を行っていく。 光学系や制御装置、惑星撮像のための装置などに関しては順調に開発が進んでいるため上記スケジュールは実現可能と思われる。一方、十分な性能を持った波面センサが搭載可能であるかに関しては、キーとなる光学素子を現在開発中であり、不透明である。従来存在しなかった光学素子ではあるが、類似の素子の開発経験のある東工大の松谷氏と共に開発を進めることで、性能を満たす素子の製作可能性は高まっている。しかしながら装置搭載が可能な波面センサの構成までは前年度の予測どおり残り2年程度は必要であると思われるため、当面は低速・低精度ではあるが、従来より他装置へも組み込まれており信頼性の高いシャックハルトマン型波面センサを組み込んで補償光学装置の開発をすすめ、望遠鏡搭載まで行う予定である。その後新方式の点回折素子の製作・性能評価が完了次第、観測装置へ組み込み、観測へ進む計画である。新方式センサが間に合わない場合では、当初想定していた性能が満たされないため、惑星撮像は困難であるが、長時間露光や低速用の高コントラスト装置を組み込むことで低温度な伴星や原始惑星系円盤など星周構造の観測が可能であると思われる。
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