研究課題/領域番号 |
18H03726
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
谷本 陽一 北海道大学, 地球環境科学研究院, 教授 (00291568)
|
研究分担者 |
富田 裕之 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 特任助教 (10435844)
細田 滋毅 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, グループリーダー代理 (60399582)
時長 宏樹 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (80421890)
野中 正見 国立研究開発法人海洋研究開発機構, アプリケーションラボ, グループリーダー (90358771)
植原 量行 東海大学, 海洋学部, 教授 (90371939)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 海洋熱吸収 / 地球温暖化の加速・減速 / 大気海洋相互作用 |
研究実績の概要 |
海洋熱吸収の10年規模変動特性と海洋熱吸収における中規模渦の役割について焦点を当てた研究を実施した。産業革命以前の実験を提供している計24モデルの出力データを整備し、 気候モデルによる海面熱フラックスの時空間変動について解析を行った。併せて、人工衛星観測に基づく海面熱フラックスの長期データとして1988年から2017年までを対象としてデータセットを再構築し、全球海洋を対象とする海面熱フラックスの長期変動の解析を開始した。その結果、 太平洋側では太平洋数十年規模振動、 大西洋側では大西洋数十年規模振動とよく似た海面水温偏差のパターンが地球温暖化の加減速に同期して現れ、 海面熱フラックスも同様に変動していることが分かった。また、これらの2つの海盆を跨ぐ熱帯海盆間変動に関連して、熱帯大西洋の自励振動が熱帯太平洋の結合変動を変調させて北太平洋の気候変動に間接的に影響することに加え、熱帯大西洋から北半球の中緯度大気循環に直接的に影響していることが示された。 さらに、海洋中規模を解像可能な海洋大循環モデルの10メンバーアンサンブル50年経年変動シミュレーション結果を用いて、本課題で注目する黒潮続流域での海洋中規模渦の変動特性と変動要因の解析を行った。僅かに異なる初期状態から同一の大気変動を与えたシミュレーションの比較から、黒潮続流域下流域では、海洋中規模渦の活動度が強く大気変動の影響を受けて変動することが示された。更に詳細な解析から、その海域での海洋中規模渦活動度の経年変動はその海域の流速の経年変動と高い相関を持ち、流速が大きいとき渦活動度が高いことが示された。また、台湾東方沖における黒潮近傍の低気圧性中規模渦の物理的特性と海洋基礎生産の関係を解析した結果、低気圧性中規模渦による低温かつ高栄養塩濃度の亜表層下部からの湧昇が、渦の相対渦度の強弱を伴うことを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地球温暖化の加速・減速を規定する10年規模気候変動に伴う海洋熱吸収の特性が多くの大気海洋結合モデルで共通に見られることが示された。一方で、これらのモデルでは解像度の粗さから適切に表現できていない海洋の中規模渦の活動度が大気場からの影響を受けることが新たに示され、海洋熱吸収の10年規模変動の理解においても中規模渦の役割を考慮する必要性を示している。これらの成果は、海洋中規模渦を海洋プロファイリングフロートにより高密度で観測する必要性と重要性を示唆している。また、次年度以降に本課題で実施予定の海洋亜表層の貯熱量やサブダクション過程に関する観測データ取得に向けて、海洋プロファイリングフロートの選定、スペック、投入手段についての選定を行い、観測準備をすすめている。さらに、これまでに取得されている海洋プロファイリングフロートデータとそのデータセットについて準備し、定量的な解析を行える体勢を整えた。以上の進捗から、研究は概ね順調に遂行できていると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
本課題における推進には、中規模渦近傍における高密度の海洋プロファイリングフロート観測を実施することが不可欠である。そのために、限られた数の海洋プロファイリングフロートの仕様、およびそれぞれのフロートの投入時期と投入海域を慎重に選定しなければならない。人工衛星観測データに基づき中規模渦の挙動を監視しながら、国内で実施される研究観測航海を活用してフロートを適切に投入する。また、研究代表者と研究分担者がそれぞれ用いている観測データ・シミュレーションデータを統合したアーカイブを立ち上げ、既存データの円滑な利用を推進する。また、これらを推進方策を議論するための研究集会を開催する予定である。
|