研究課題
本年度は、「下部マントルへの水の運搬とその貯蔵能力の解明」を推進すべく、特に下記の研究を遂行した。1)下部マントルの主要構成鉱物であるbridgmanite中への無水・含水条件下でのAl固溶のメカニズムの解明。2)マントル遷移層から下部マントルにかけて重要な高圧含水相superhydrous phase B中へのAl固溶のメカニズムの解明。3)我々が発見した新規高圧含水相23Å相の安定領域、圧縮特性、及び弾性波速度の解明。1)については、Alに富んだbridgmaniteの高温高圧下での合成実験、その試料のX線回折、中性子回折、EPMAによる化学組成測定、SMSによる含水量測定を通して、Alの固溶メカニズム及び最大固溶量の解明を行った。さらに放射光X線その場観察実験を通して、状態方程式や弾性波速度を明らかにする研究を行った。2)については、高圧含水鉱物にAlが固溶することにより、明瞭に温度安定性が上昇することを示し、比較的低温のプレートのみならず、一般的なマントル温度でさえもこの含水鉱物が安定に存在しうることを明らかにした。3)については、緑泥石は蛇紋石にAlが固溶した組成をもつ含水鉱物であるが、沈み込むプレート内でAlに富む領域では、蛇紋石よりも緑泥石が重要であると考えられる。よって、プレートの沈み込みに伴って運搬される緑泥石岩体の挙動を調べる研究を行ったが、その過程で新規高圧含水相23Å相を発見し、その安定領域、圧縮特性、及び弾性波速度の解明を行った。これらの成果は、国内外の学会で発表するとともに、2)3)については既に投稿論文として発表も行った。
2: おおむね順調に進展している
現在までに、下部マントルの主要鉱物であるbridgmanite中へのAl固溶メカニズムについて無水・含水で比較した実験的研究を行った。さらに、マントル遷移層から下部マントルにおいて重要な高圧含水相superhydrous phase B中へのAl固溶メカニズムを解明した。加えて、我々が新規に発見した高圧含水相23Å相の安定領域、圧縮特性、及び弾性波速度を明らかにした。これらの成果は、国内外の学会で発表するとともに、投稿論文として発表も行っている。bridgmanite中へのAl固溶メカニズム・最大含水量の研究については、既に多くの国内外の学会で発表した(日本地球惑星科学連合2018年大会(JpGU2018)、国際鉱物科学会(IMA2018)、モスクワでのシンポジウム、日本鉱物科学会2018年年会・総会、第59回高圧討論会など)。その反響はかなり大きく、発表後、多くの研究者が関心を示してきた。重要な課題だけに、しっかりした論文としてまとめて公表する。Alに富んだsuperhydrous phase Bの研究については、アメリカ物学会の国際誌”American Mineralogists”に発表し、エディターによる注目論文に選ばれた。さらに、新規高圧含水相23Å相は緑泥石岩体が沈み込んだ際に出現する高圧含水相よりその重要性は自明であるが、Physics of Earth and Planetary Interiorsに圧縮特性及び弾性波速度の解明の2編の論文を, Comptes Rendus Geoscienceに安定領域の解明の論文を発表した。よって研究は当初の予定通り順調に進んでいると評価する。
水(H2O)は地球表層に大量に存在する主要な揮発成分の一つであり、スラブの沈み込みによって常に地球内部へ供給され、鉱物の物性や溶融温度に大きな影響を与えている。マントルやMORB中でMg、Fe、Siに次いで多く存在する元素はAlであり、Alの価数は奇数(Al3+)であるためH+とのカップリング置換により、鉱物中の含水量を増加させる可能性がある。本研究ではその可能性を探るべく、マントル遷移層から下部マントル上部での条件下で高温高圧実験を行っている。今後も、交付申請書に記したAl3+とH+のカップリング置換現象の重要性を追求し、「下部マントルへの水の運搬とその貯蔵能力の解明」に関する研究を推進すべく、実験的研究を遂行する。特に、bridgmaniteは下部マントルの主要鉱物であるため、その解明が最重要度課題である。また、高圧含水鉱物としてsuperhydrous phase Bに加えてphase Dも重要であり、このphase D中へのAlの固溶、及び安定領域への影響について明らかにする。そして、その中で次なるターゲットとして、Fe3+の影響の解明へと広げていく。さらに良質な試料が合成できれば、高温高圧下での物性測定を試み、状態方程式や弾性波速度の解明を行う。bridgmaniteの研究は下部マントルの主要構成鉱物であり学界でのインパクトも大きいことから慎重に研究を進めている。既にかなりの手ごたえのある結果を導きだしてきており、その検証を続けるとともに、有無も言わさない結果を導き出すことに努力する。特に、チェルマック型置換、酸素欠損型置換、含水型置換の関係、及び大まかな固溶限界を明確にする。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (22件) (うち国際共著 8件、 査読あり 22件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (36件) (うち国際学会 11件) 備考 (2件)
Comptes Rendus Geoscience
巻: 351 ページ: 104~112
https://doi.org/10.1016/j.crte.2018.09.010
Physics of the Earth and Planetary Interiors
巻: 288 ページ: 1~8
https://doi.org/10.1016/j.pepi.2019.01.006
Journal of the European Ceramic Society
巻: 39 ページ: 3627~3633
https://doi.org/10.1016/j.jeurceramsoc.2019.05.003
Nature
巻: 565 ページ: 218~221
https://doi.org/10.1038/s41586-018-0816-5
巻: 351 ページ: 163~170
https://doi.org/10.1016/j.crte.2018.04.005
American Mineralogist
巻: 103 ページ: 1221~1227
doi:10.2138/am-2018-6499
巻: 283 ページ: 1~6
doi:10.1016/j.pepi.2018.07.006
Journal of Mineralogical and Petrological Sciences
巻: 113 ページ: 51~55
https://doi.org/10.2465/jmps.161114d
Geofluids
巻: 2018 ページ: 1~11
https://doi.org/10.1155/2018/2141878
巻: 103 ページ: 944~951
https://doi.org/10.2138/am-2018-6351
Geophysical Research Letters
巻: 45 ページ: 8167~8172
https://doi.org/10.1029/2018GL078960
Japanese Magazine of Mineralogical and Petrological Sciences
巻: 47 ページ: 127~140
10.2465/gkk.171018
Journal of Applied Physics
巻: 123 ページ: 161577~161577
https://doi.org/10.1063/1.5011209
Crystal Growth & Design
巻: 18 ページ: 3016~3026
https://doi.org/10.1021/acs.cgd.8b00125
Earth and Planetary Science Letters
巻: 490 ページ: 151~160
https://doi.org/10.1016/j.epsl.2018.03.029
Physics and Chemistry of Minerals
巻: 45 ページ: 995~1001
https://doi.org/10.1007/s00269-018-0980-z
巻: 103 ページ: 1512~1515
https://doi.org/10.2138/am-2018-6313CCBY
Contributions to Mineralogy and Petrology
巻: 173 ページ: -
https://doi.org/10.1007/s00410-018-1515-9
Journal of Non-Crystalline Solids
巻: 499 ページ: 25~31
https://doi.org/10.1016/j.jnoncrysol.2018.07.002
Journal of the American Ceramic Society
巻: 101 ページ: 5030~5036
https://doi.org/10.1111/jace.15760
Intermetallics
巻: 102 ページ: 120~131
https://doi.org/10.1016/j.intermet.2018.08.011
Scientific Reports
巻: 8 ページ: -
https://doi.org/10.1038/s41598-018-24832-y
http://hiper.hiroshima-u.ac.jp/
http://depss.hiroshima-u.ac.jp/gs/index.html