研究課題/領域番号 |
18H03740
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
井上 徹 広島大学, 理学研究科, 教授 (00291500)
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研究分担者 |
肥後 祐司 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 主幹研究員 (10423435)
栗林 貴弘 東北大学, 理学研究科, 准教授 (20302086)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 地球深部水 / 高圧含水鉱物 / 上部マントル / マントル遷移層 / 下部マントル / 水の輸送 / 水の貯蔵庫 / マントルダイナミクス |
研究実績の概要 |
本年度も前年度同様、「下部マントルへの水の運搬とその貯蔵能力の解明」に関する研究を推進すべく、実験的研究を遂行した。特にAl3+とH+のカップリング置換現象が重要であると考えており、下記の研究を引き続き遂行した。 1)下部マントルの主要構成鉱物であるbridgmanite中への無水・含水条件下でのAl固溶の影響の解明。2)マントル遷移層から下部マントルにかけて重要な高圧含水相phase D中へのAl固溶の影響の解明。3)これらの高圧含水鉱物におけるFeの影響の解明。4)Alに富んだ高圧含水鉱物の弾性波速度の解明。 1)については無水含水での置換メカニズムの解明、そのAl固溶限界、更にはH2Oの最大溶存度を明らかにする研究を遂行した。これらの結果に関しては学会発表で公表した。2)のAlに富んだphase Dの研究については、その温度圧力安定性を明らかにし、Alが固溶することにより、特にその温度安定性が上昇することを明らかにした。本研究成果は既に国際誌に出版済みである。3)のFeの影響に関しては、下部マントル条件下で安定なδ-AlOOH相に適用し、Fe3+固溶限界の温度圧力依存性の傾向を明らかにした。 結果、δ-AlOOH相とε-FeOOH 相はマントル遷移層から下部マントルの条件下ではソルバスを形成するが温度上昇に伴いお互いに固溶していく傾向があること、またその圧力依存性はあまり大きくないということを明らかにした。本研究成果についても既に国際誌に出版済みである。4)の弾性波速度測定実験に関しては、Alに富んだbridgmanite及びAlに富んだphase Dで行った。前者に関しては論文執筆中、後者については既に論文投稿済みである。このように申請者の予想通り、交付申請書に記したAl3+とH+のカップリング置換現象の重要性が、下部マントルで安定な高圧含水鉱物で示されてきている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、下部マントルの主要鉱物であるbridgmanite中へのAl固溶メカニズムについて無水・含水で比較した実験的研究を行った。さらに、マントル遷移層から下部マントルにおいて重要な高圧含水相phase D中へのAl固溶メカニズムを解明した。そしてその影響により、特に温度安定性が上昇することを明らかにした。このことは、沈み込むスラブの低温部のみならず、比較的高温部にも高圧含水鉱物がAlの固溶効果により存在可能であり、下部マントルまで有効に水が運搬可能であることを示す。さらに我々の研究は、下部マントルに存在するAlに富んだbridgmaniteには、Al3+とH+のカップリング置換現象によりかなりの水が貯蔵可能なことを示してきている。このように、下部マントルは含水化が可能であることを示唆する。 Fe3+の固溶の影響も重要であり、まずは単純な含水相であるδ-AlOOH相で明らかにした。結果、、温度上昇に伴い固溶していく傾向があること、またその圧力依存性はあまり大きくないということを明らかにした。この結果は今後のbridgmaniteへの研究に対して重要な情報を与える。さらにAlに富んだbridgmanite及びAlに富んだphase Dで弾性波速度測定実験を遂行した。 全体を通して、下部マントル鉱物でSi4+のサイトが6配位の際はAl3+とH+のカップリング置換が起こりやすくなる事が明らかとなった。このように予想通り、交付申請書に記したAl3+とH+のカップリング置換現象の重要性が、下部マントルで安定な含水鉱物で示されてきた。 本研究の成果のいくつかは既に査読付き国際誌に出版、更に現在投稿中、執筆中の論文もいくつかある。更に学会発表の方でも最新の成果を公表し続けており、研究は当初の予定通り順調に進んでいると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、交付申請書に記したAl3+とH+のカップリング置換現象の重要性を追求し、「下部マントルへの水の運搬とその貯蔵能力の解明」に関する研究を推進すべく、実験的研究を遂行する。特に、bridgmaniteは下部マントルの主要鉱物であるため、その解明が最重要度課題である。その中で、今後進めるべきことは、1)Alの固溶メカニズム・最大含水量の更なる精度での解明、2)Fe3+の影響の解明、3)弾性波速度の解明、である。 1)に関しては、チェルマック型置換、酸素欠損型置換、含水型置換の関係、及び大まかな固溶限界は解ってきた。ただ、電子顕微鏡・二次イオン質量分析計による化学組成分析に耐えうる粒径に成長させることが困難であり、X線もしくは中性子回折パターンからリートベルト解析により推定を試みている。ただ、その精度に限界があることが問題点として挙げられる。これらの解決策として、既に数日間かけた長時間の合成実験により粒成長の促進を試みている。一方、リートベルト解析の精度向上の試みも行っている。両者の試みを組み合わせて、更なる精度向上を目指す。 2)に関してはFe3+はAl3+に対して若干イオン半径が大きいため、置換が限定されることは当初から予想していた。ただ、δ-AlOOH相の研究から、高温下ではFe3+の固溶量が有意に上昇していくことが明らかになった。このことはbridgmanite中でも期待される。またFe 3+は更なる高圧下でスピン転移を起こすと予想される。その場合、イオン半径が減少するため、Fe3+の固溶が起こりやすくなるはずである。この解明を目指す。 3)に関しては、既に多くのデータを収集してきており、その解析を推進する。放射光X線その場観察法を利用した高温高圧下弾性波速度測定実験は高度な技術や解析を必要としている。その系統的な解析を改良しながら行っていく。
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