研究課題
2019年7月に日本海盆東部に係留した流速計と、2019年10月に大和海盆西部に係留した流速計を、それぞれ2020年10月と11月に回収することに成功した。これらのデータから、大和海盆と日本海盆の近慣性運動の特徴が明らかにされつつある。また日本海南部の深層流のデータから、表層で発生し下向きに伝播する近慣性内部波と、海底で反射した上向きに伝播する内部波が干渉し、底層の流れが強化されることにより、深海での鉛直混合が促進される機構を明らかにした。これは、深海における強鉛直混合域の形成に関わる重要な知見である。さらに2019年に行った観測結果から、海上風起源の近慣性内部波のエネルギーが、中規模渦を介して深層まで効率的に輸送されていることを示した。これらの成果を2本の学術論文として国際誌に公表した。Argoフロートデータの解析から、深層水の水温上昇シグナルを検出した。これは深海における水塊変質を示す結果である。水温上昇は日本海全域で確認されたが、日本海南部では、北部に比べて約2倍の速度で昇温していることが示された。また長期船舶観測資料から、南部と北部の水温上昇率の乖離は1990年代から顕著となることがわかった。この結果は、地球温暖化にともなう深層水の形成量の減少により、北部で形成された低温な深層水の南部への輸送量が減少しつつあることを示唆している。前年度までに主要な3つの海盆で採取したトリチウムの分布を解析した結果、表層と200m深付近に福島第一原発事故,あるいは韓国原子力施設由来と考えられる極大層を確認した。一方、1000m以深でのトリチウム濃度はすべての海盆で深度とともに減少するが、対馬海盆の底層では検出下限値を下回るのに対して、日本海盆と大和海盆ではごく微量ながら検出されることを示した。これは、2000~2001年に新たに形成された底層水の痕跡と考えられる。
3: やや遅れている
2020年5月および7月に計画していた観測航海が、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で中止となり、予定していた新たな現場観測(深層流の観測と化学トレーサーのサンプリング)を実施することができなかった。このため、近慣性内部波の水平・鉛直伝播過程を明らかにするための短期集中観測が実施できていない。また、2018年10月に大和海盆に係留し、切り離し装置のトラブルにより未回収となっている流速計についても、回収の目処が立っていない。化学トレーサーについては、過去の航海で得られたサンプルを分析中であるが、2020年度前半の緊急事態宣言の発令により実験施設の利用が制限された影響で、サンプルの計測作業に遅れが生じている。
未実施の近慣性内部波の短期集中観測を2021年5月に大和海盆西部で実施すべく、準備中である。この観測では、約10km離れた2地点に複数の流速計を係留し、海洋上層で発生した近慣性内部波が、別の地点の深海の流れに及ぼす影響を観測する。既に内部波の伝播に関するいくつかのシミュレーションを終えており、その結果に基づき流速計の配置をデザインしている。これらの流速計は2021年8月に回収予定である。また5月の観測では、係留地点での海水特性の調査、および化学トレーサーのサンプリングも行う予定である。2021年6~7月には、大和海盆において海水特性分布の観測、船舶搭載型流速計による流動観測に加えて、乱流計を用いた乱流計測を行う予定である。これは風によって励起された近慣性内部波と中規模渦との関連を調査するものである。さらに2021年7月には、日本海盆から大和海盆にかけての海域で海水特性分布の観測と、化学トレーサーのサンプリングを行う予定である。ただし、上述した船舶による現場観測は、新型コロナウイルスの感染拡大状況によっては中止・延期となる可能性がある。数値モデル実験による、強鉛直混合域と海盆スケールでの循環の関係に関する研究を実施する。既に応用力学研究所で開発したRIAM Ocean Modelのコード解析を終えており、テストランを実施している。大和海盆深層の鉛直拡散係数、鉛直粘性係数をパラメータとして、日本海全域の深層循環の応答を調べる予定である。
すべて 2021 2020 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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