研究実績の概要 |
水月湖年縞堆積物試料の、主として15,000-17,000年前(全体としては12,000-37,000年前)に相当する部分から計67層準を選び、セルソーターによって化石花粉を抽出した。さらに、抽出された化石花粉サンプルに対して放射性炭素年代測定を実施した。得られた花粉の年代を、過去に葉化石から得られていたデータと比較したところ、全体の傾向はきわめて良い一致を示した。このことは、花粉年代の確度が、葉化石の年代のそれと同等に高い(すなわち、花粉の純度や微量測定に由来する問題はすべて解決にこぎ着けた)ことを示している。いっぽう、葉化石の放射性炭素年代は一定のばらつきを持つのに対し、花粉年代は葉化石以上に年代値の集中が良かった。この結果は、葉化石の年代が特定の年のスナップショットであるのに対し、花粉年代はおよそ20年の移動平均になっていることから予想される結果と整合的だった。 このことは、1)花粉年代の傾向と葉化石の年代値を比較することにより、過去の宇宙線強度の年々変動の大きさを復元できることを占めている。また、2)放射性炭素濃度の年々変動の影響を受けにくいという点で、放射性炭素年代較正モデルを構築する材料としては、葉化石よりも花粉化石の方が使い勝手がいい(場合によって較正年代の拘束力が強い)ことも示唆しており、この分野の未来にとってはきわめて明るい材料となった。 なお、とくにハインリッヒイベント1として知られる16,000-17,000年前頃については、中国の鍾乳石と熱帯大西洋のプランクトンから得られる放射性炭素年代の傾向が矛盾することが知られていた。この現象は従来、大西洋の鉛直循環が気候変動と連動して変化したことによるものと解釈されてきたが、今回の水月湖の花粉年代の中には、むしろ大西洋と良い一致を示すものが含まれており、従来の解釈に疑問を投げかける結果となった。
|