研究課題/領域番号 |
18H03745
|
研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
猪上 淳 国立極地研究所, 国際北極環境研究センター, 准教授 (00421884)
|
研究分担者 |
川口 悠介 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (00554114)
野村 大樹 北海道大学, 水産科学研究院, 助教 (70550739)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 北極海 / 観測 / 予測 / 気候システム / 大気-海氷-海洋相互作用 |
研究実績の概要 |
MOSAiC漂流観測参加のための国際ワークショップに参加し(2018年5月および2019年3月)、観測および研究のための情報収集並びに乗船参加のための契約手続きを開始した。観測は2019年10月から2020年9月までの1年間である。国際事務局のあるアルフレッドウェーゲナー極地海洋研究所(以下、AWI)と調整を行い、当該年度分の支払いを済ませた。これにより正式な国際共同研究先として日本が登録されたことになる。 MOSAiC乗船研究者の準備状況として、海氷上の温室効果気体の交換過程を測定するために二酸化炭素とメタンの個々の分析装置を一つの系にまとめ、両気体の測定を同時にできるよう改良した。また、2019年2月には、オホーツク海沿岸サロマ湖で二酸化炭素およびメタン交換量測定装置の現場テストを実施し、低温環境下での動作を確認した。同年3月には、AWIにおいて、本装置の厳冬期において使用する電源システムの構築・検証を行った。また、MOSAiCにおける海洋物理観測のテストベッドとして、巡視船「そうや」を用いたオホーツク海の海氷域での予備観測も行なった。 MOSAiCに先立ち、北極域の気象観測データが中緯度の気象予測に役立つ例として、2016年8月の日本域の台風の事例と、9月の米国東岸のハリケーンの事例について、データ同化を用いた予測可能性研究を実施した(Sato et al. 2018 Sci. Rep; 2018年8月30日プレスリリース)。北極域の観測を増やすと北極域起源の極渦を伴う気圧の谷の予測精度が向上し、熱帯低気圧の経路予測が改善することが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MOSAiC乗船に関する準備状況は順調である。まず、国立極地研究所と相手先のAWIとでMOSAiC乗船のための契約を取り交わした。乗船予定の研究分担者2名は、海洋チームおよび地球化学チームの他国の乗船メンバーと綿密な観測計画を策定し、各人が乗船しない期間も相互に観測を請け負える体制を築いた。これにより、当人が一年間乗船しなくても通年のデータを取得できる道筋ができた。また数値モデル研究においては、MOSAiCに先立ち、北極域での気象観測が中緯度の極端現象予測に影響する結果を国際共著論文として発表し、国際的にも高い評価を得た。 MOSAiCの開始時期と同時期に実施する海洋地球研究船「みらい」の北極航海については、2018年の11月に初冬航海を実施し、寒冷環境下での航海における安全意識・注意点などを確認できた。特に、ヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)等の高時間・空間分解能の天気予報・海氷予報を船上にて準リアルタイムで入手するシステムを構築し、航海計画の効率化を図った。このシステムは2019年度の「みらい」北極航海で本格利用を行う。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年10月よりドイツ砕氷船を用いた一年間の北極海漂流観測(MOSAiC)が始まる。当研究課題の研究分担者2名は、それぞれが所属するMOSAiC海洋チームとMOSAiC地球化学チームの国際メンバーによって、通年の観測データを取得するために、双方で分担する観測手法の習熟を行い、乗船観測のための最終調整を行う。また、氷上・船上での活動に必要なライフルの操作(シロクマ対策)や脱出訓練などにも参加し、安全面での対策も進める。それと並行して機材の輸送準備も行う。 さらに、観測・解析手法の準備として、2018年2月に実施した巡視船「そうや」やサロマ湖での予備観測データを用い、乱流フラックス手法や氷上ガス交換観測の有効性を確かめ、MOSAiC観測期間中の作業を意識した研究に取り組む。 MOSAiC観測期間中に実施される高層気象観測は、データ空白域である北極点付近の極渦を捕えることのできる重要な観測データ源である。これらのデータが北極圏および中緯度域の極端気象現象の予測精度向上において、どの程度有効であるかを評価するためのデータ同化実験の準備に着手する。 また、MOSAiCと同時に実施する海洋地球研究船「みらい」でも、気象観測(ラジオゾンデ観測)・海洋物理観測(海洋乱流観測等)を行い、MOSAiCによって取得される海氷域のデータと比較できるデータを取得する。 当研究課題の予算を使用したMOSAiCへの参加は、日本がMOSAiCの正式な国際パートナーとして活動することを意味する。MOSAiCの進行状況やデータポリシーなど、国内研究コミュニティーにも有益な情報は研究代表者がとりまとめ、適宜情報発信を行う。
|
備考 |
2018年6月28日, 8月30日, 9月25日プレスリリース
|