研究課題/領域番号 |
18H03745
|
研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
猪上 淳 国立極地研究所, 国際北極環境研究センター, 准教授 (00421884)
|
研究分担者 |
川口 悠介 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (00554114)
野村 大樹 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (70550739)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 北極海 / 相互作用 / 予測可能性 |
研究実績の概要 |
MOSAiCデータを用いた研究:新型コロナの影響により、2名の乗船予定が1名の乗船に変更となったが、当該科研費の分担者による乗船と現場でのサポートにより、予定していた観測項目の大半を達成できた。具体的には、北極点近くの多年氷の運動に伴う衝突や回転といった流動上の特性や、氷脈を受けた海氷の喫水が直下の海水をドラッギングする効果について、海氷ー海洋境界層内の擾乱成分を抽出する観測に成功した。今後は、北極海の海氷運動と海洋下層の熱の鉛直輸送に関して、相互の依存関係を定式化・定量化することを目標としてデータの詳しい解析を進める。また、大気ー海氷間の物質交換過程を把握するために海氷上で二酸化炭素チャンバーによる実験を実施した。海氷の種類(1年氷もしくは多年氷など)や表面の形態(積雪の有無など)によって、二酸化炭素交換量に違いがあることを確認した。MOSAiCの初期から行った本観測は、年間を通じた大気との二酸化炭素収支の見積もりに大きく貢献する。 予測可能性研究:研究船「みらい」で実施された高層気象観測について、北米のハリケーン進路予測における影響を調査した。その結果、高緯度から気圧の谷が南下する場において、北極域の観測シグナルが中緯度域でのハリケーン等の熱帯低気圧の進路予報を向上させることが明らかとなった(国際誌発表済)。一方、中緯度から北極域の影響に関しては、ベーリング海で卓越するブロッキング高気圧に伴う持続的な南風の卓越によって、ベーリング海の暖水が北極海に流入し、海氷の形成時期が遅れるなど、中緯度の大気循環変調が海洋を介して高緯度の海氷形成に影響があることを示した(国際誌発表済)。また、観測データの質的な問題について、ロシア域の高層気象観測データの詳細な分析により、当該国のデータの一部は大気再解析データにおける不確実性を増大させる傾向があることが示された(国際誌発表済)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナの影響でMOSAiCの航海計画が頻繁に変更になり、本研究課題から乗船する予定だった2名のうち1名は参加できなくなった。しかし、必要とする観測データは取得でき、解析も進んでいる。 予測可能性研究に関しては、MOSAiC期間中に実施した研究船「みらい」やニーオルスン北極基地での雲に関するデータの分析・論文執筆が進んでいる。また、気象観測データの高緯度から中緯度への気象予測への影響や中緯度気象極端現象の高緯度への影響など、双方向の影響を論文発表しており、プレスリリースを通じて国内外に積極的に情報発信している。
|
今後の研究の推進方策 |
MOSAiCのデータは1年分あるため、データ整理と持ち帰り試料の分析には国際的な枠組みで調整の上、分担する必要がある。そのため、最終年度も引き続き分析・解析を進めながら成果の取りまとめを行う。 予測可能性研究においても、引き続きMOSAiCを対象とした観測システム実験の解析を進め、その成果を取りまとめる。一方で、極域予測年の集中観測が終了したことを受け、これまでの北極域の気象観測の中緯度気象予測への影響を鑑み、持続可能な観測システムの一つとして、ドローン等を利用した機動的観測の必要性について提唱することを試みる。
|
備考 |
「北極の海氷量、雲が左右」、日本経済新聞掲載(2021/2/28) 「北極海 海氷変化の謎に迫る」、朝日新聞掲載(2021/1/28)
|