研究課題/領域番号 |
18H03750
|
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
安藤 泰久 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00344169)
|
研究分担者 |
中野 美紀 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (20415722)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ナノストライプ構造 / 多層膜 / 摩擦係数 / 油膜厚さ / 数値計算 / 温度 / 粘度 |
研究実績の概要 |
3次元ナノ構造の摩擦に及ぼす潤滑油粘度の影響を調べるために、基板温度を変化させることで潤滑油粘度を変化させて、速度と摩擦力の関係を検討した。潤滑油として、ヘキサデカンとVG68のポリαオレフィン(PAO)を用いた。測定には、原子間力顕微鏡のサンプル基板の下部にペルチェ素子を配置し、20℃から40℃の間で温度を変化させて、AFMの面走査によりレンズプローブにより摩擦力の測定を行った。マイクロ溝試験片では、ナノ溝構造を有する試験片と比較して高い摩擦係数が測定され、境界潤滑から混合潤滑の特性を示すことが明らかになった。それに対して、ナノ溝構造を有する試験片では、同じ摩擦条件でもPAOを用いたときには高速度域で流体潤滑領域に移行する様子が確認された。温度による粘度変化の影響について、全体としては、温度が高いほど摩擦力が低下する傾向を示し、粘度変化の差よりも摩擦係数の変化が大きいことが明らかになった。これについては、レンズをサンプル基板に引きつけるラプラス圧力による荷重の増加分が寄与している可能性、またナノ構造によって、ナノスケール厚さの液体膜中分子の層構造が影響を受けている可能性が指摘された。 ナノ溝構造による周期性に加え、より大きなスケールで一定のパターン形状が繰り返される3次元ナノ構造に関して、メゾスケールのラスタースキャン摩擦試験装置を用いて摩擦力分布を測定し、さらに数値計算によって潤滑油膜厚さを検討した。その結果、摩擦方向に対して、平行方向に深い溝が存在するとき、その溝によって流体動圧の発生が阻害され、潤滑油膜厚さが小さくなることが明らかになった。 3次元ナノ構造の固体潤滑特性に関しては、AuとCrの組み合わせにより、大気中で摩擦距離と摩擦係数の関係を検討した。Auの膜厚比を増加させることで、摩擦係数は低下する傾向を示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナノ溝構造によって狭いすき間の潤滑油の粘度が影響をうけること、またそれに温度が影響を与えている可能性を見出したことは、3次元ナノ構造におけるナノ溝構造の作用を明らかにする上で大きな意義がある。表面張力の影響、また温度変化による潤滑油量の変化については、今後検討していく必要性が残されている。 一方で、より大きな周期構造が摩擦力に与える影響について、摩擦力分布による検討を進めることが出来こと、さらに、数値計算を取り入れることで摩擦力の差を精度良く説明できる体制が出来た点は大きな進歩である。これまで、パターン中の潤滑油の流れについては、定性的な考察に留まっていたが、今後は数値計算の結果と組み合わせて説明することが可能になった。さらに、数値計算を事前に行うことで、より高い潤滑性能を示すパター配置の検討を効率的に行えるようになることも期待出来る。 固体潤滑特性については、硬質金属上に移着した軟質金属の膜厚測定を当初は目指していたが、Agの代わりにAuを用いたことで、低摩擦が得られなくなってしまい、AFMによる検討を行うことが出来なかった。 以上より、固体潤滑に関して若干の遅れはあるものの、ナノのストライプ構造の有用性を確認出来たこと、数値計算の導入により精緻な考察や効率的なパターン配置の探索が可能になった意義が大きく、本研究課題は概ね順調に進捗していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
潤滑油粘度を温度によって変化させたときに、ナノ溝構造を有しないマイクロ溝のみのサンプル基板表面では、特に温度変化の影響が大きく現れたことから、ナノスケール厚さの潤滑粘度の増加傾向が温度の影響を強く受けているという可能性が示された。そのことを確認するためには潤滑油の種別を変えることも必要である。またそれに加えて、表面張力変化の影響を定量的に明らかにする必要がある。その上で、潤滑油の種別を変化させたり、ナノ溝構造溝深さやピッチを変化させたりして,ナノ溝の摩擦低減効果を明らかにしていく予定である。 パターン配置と数値計算の組み合わせに関しては、パターン上で球面状の摺動子が接触する位置を変化させることで、各座標の平均膜厚を数値計算により求める。この結果をAFMやメゾスケールラスタースキャン装置による測定結果をと比較することで、パターンにより摩擦係数の分布が現れたときに、それが平均油膜厚さとどのような関係にあるかを明らかにする。 固体潤滑効果に関しては、AgとCrを組合わせた3次元ナノ構造を真空中で摩擦し、摩擦後の摩耗痕についてAFMで電流分布と摩擦力分布を調べる。電流分布測定により、光学顕微鏡では分かり難い移着膜の分布を明らかにした上で、摩擦力分布測定を行い、移着膜上の摩擦係数低減効果を確認する予定である。
|