研究課題/領域番号 |
18H03753
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
澄川 貴志 京都大学, 工学研究科, 准教授 (80403989)
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研究分担者 |
中村 篤智 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (20419675)
嶋田 隆広 京都大学, 工学研究科, 准教授 (20534259)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ナノ疲労 / 引張圧縮疲労試験 / その場観察 / 電子顕微鏡 / 転位構造 |
研究実績の概要 |
R1年度の研究計画は、以下のように纏めることができる。1. 前年度に開発・試作を行った電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)用負荷試験装置で得られた知見及び基礎原理(オン-チップ型試験片を用いた負荷試験手法)に基づいて、透過型電子顕微鏡(TEM)内で同様の繰り返し負荷試験を実施できる装置を開発した。ナノ試験片のハンドリング時の損傷を防ぐため、試験片(銅(Cu))の両端をカートリッジ(フレーム)上に固定した後、集束イオンビーム(FIB)加工装置を用いて一旦試験片の一部(試験片内の試験部から離れた箇所)を切断し、その状態のまま負荷試験装置に取り付けた。試験片は物理的に分離されているため、振動等によって損傷することはない。負荷ホルダをTEM内に挿入し、試験片を再接続することで、TEM内での負荷試験に成功した。試験片の接続のために、カートリッジ及び負荷装置には特殊な通電機構を設けた。2. 疲労実験と透過観察により、微小試験片内の転位構造を特定し、マクロ材のそれとは大きく異なっていることを明らかにした。単一すべり方位を有する試験片内部には繰り返し負荷によって形成された数本の転位壁が存在するのみで、転位密度の低い領域が大半を占める。試験片寸法が異なる試験片を用いて実験を行った結果、数ミクロンサイズになると、マクロ材の疲労で見られる転位のベイン構造が形成し始めることがわかった。ベイン構造ができない微小試験片では、マクロ材のような繰り返し加工硬化を示さなかったことからも、表面の影響により転位が容易に外部に射出され、数ミクロン寸法を有するベイン構造が形成されにくい環境にあることがわかった。さらに、多重すべりを有するCu単結晶試験片に対しても繰り返し負荷試験を実施した。この試験片に対しても表面の影響が顕著に表れ、さらに交差すべりによる特有の疲労挙動を示すことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R1年度の研究計画は、1. 開発した負荷試験装置を用いたナノ試験体に対するTEM内その場観察引張圧縮疲労試験の実施、2.試験結果に基づく材料中の転位の発生・増殖・消滅機構の特定、である。計画に沿って、現有のTEMの専用品のとして開発したその場観察微小負荷ホルダを用いた負荷試験を行った。ナノ試験片の固定とハンドリングにおける問題点を解決する手法を考案し、試験に成功した。透過観察の結果から、引張圧縮変形によって形成される疲労下部組織を特定した。TEMによる内部観察結果、SEMによる外形状観察結果、及び、繰り返し応力-ひずみ関係の変化を総合的に考察し、転位の発生・増殖・消失機構を提案した。研究過程において、ナノ試験片のハンドリング時の損傷等、当初の想定とは異なる幾つかの問題が発生したが、対策を実施し、研究計画を達成した。研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に沿って計画を実施する。①転位の発生・増殖機構に加えて、疲労転位構造形成及び疲労破壊のメカニズムを提案する。②マルチスケール解析により力学的な考察を行う。③より複雑な力学条件下での転位挙動を理解するために、形状を変えた試験体や結晶粒界等の界面を含む試験体を作製して実験とシミュレーションを実施し、より精密な力学的支配因子を特定する。④一連の結果を総合的に検討し、ナノ疲労のメカニズムを解明して、その力学的学術基盤を構築する。
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