研究課題/領域番号 |
18H03757
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
高松 洋 九州大学, 工学研究院, 教授 (20179550)
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研究分担者 |
田中 敬二 九州大学, 工学研究院, 教授 (20325509)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 熱伝導率 / 生体高分子材料 / DNA固体膜 / クモ糸 / 測定法 / 高機能材料 |
研究実績の概要 |
本年度は,①クモ糸を試料とした実験,②およびDNA固体膜の実験を行うとともに,問題点の抽出を行った.実験はITX法と名付けた独自の方法で行った.この方法では,加熱源とセンサを兼ねるホットワイヤとして金属細線を用い,試料がセンサの中央部に交差接着して両端がヒートシンクに接している状態(X型),一方のヒートシンクを除去して試料の片方のみがヒートシンクに接している状態(T型),およびセンサだけの状態(I型)の三通りの状態でセンサの加熱,温度測定を行う.そして,それらの結果の差より試料の熱伝導率とセンサ/試料間の接触熱抵抗を求める.なお,実験はいずれも真空中で行った. ①では,直径10ミクロン,長さ22.4 mmの白金線を用い,ジョロウグモの牽引糸(直径3ミクロン)を試料とした測定を行った.その結果,得られた熱伝導率は7 W/(m・K)程度であった.この値は,これまでに公表されている唯一の高い値(約400 W/(m・K))と比べると極めて低いが,生体高分子としては妥当な値と考えられる.しかし,より高い熱伝導率を想定して実験装置を設計したため,測定の感度が十分でないことが明らかになった. ②では,DNA水溶液のキャスティング乾燥により作成した厚さ0.4 mm,幅0.8 mm,長さ2 mmのDNA固体膜を試料とした実験を行った.この実験では,直径100ミクロン,長さ10 mmの白金線をセンサとして用いた.得られた熱伝導率は0.6 W/(m・K)であり,一般の樹脂の約2倍程度であった.接触熱抵抗は全体の熱抵抗の50 %程度であり,この影響を考慮する本方法の有効性が明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DNA固体膜を試料とした実験では,センサの電気的特性,熱的特性とも文献値とほぼ一致し,測定した熱伝導率,接触熱抵抗ともほぼ妥当な値が得られた.一方,クモ糸を試料とした実験では,測定感度が不足していたため測定誤差が大きくなったと考えられるが,全く不明であったクモ糸の熱伝導率の概略値が明らかになった.したがって,得られた概略値を新たな想定値として感度解析を行い,実験装置の諸元(白金細線の直径,長さ,試料の長さなど)を決定する必要がある.なお,懸案であったクモ糸試料の入手については,理化学研究所の沼田博士(2020年4月より京都大学)の協力が得られることになっている.
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今後の研究の推進方策 |
DNA固体膜の実験では,ほぼ妥当な結果が得られたので,DNA固体膜試料の作製に注力し,数多くの試料を用いた実験を行って精度の高い結果を得ていく予定である.一方,クモ糸の測定に関しては,現状の装置では感度が不足している.これを解決する一つの方法としてより細い白金細線をセンサとして用いることを検討してきたが,白金線の被覆の除去が困難であることが明らかになった.そこで,クモ糸を複数本束ねた状態で実験を行うように方針を変更する.この場合,本数の異なる試料を用いて多くの実験を行う必要があるため,比較的容易に繰り返し実験が行えるような実験装置を考案,設計し,製作した.センサの検定を行って装置の健全性を確かめる準備は完了しているので,新型コロナウィルスへの対応のための自宅待機が解除され次第,検定を行う予定である.なお,クモ糸試料の準備は,京都大学で行うよう既に調整済みである.
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