iPS細胞は再生医療などへの利用が期待され、心筋細胞へと分化させることも可能になった。しかし、生体の心筋細胞と比べて未成熟であるなど、実用化には課題があることが指摘されている。そこで、本研究では、高感度のピエゾ抵抗型力センサを用いてiPS細胞由来の心筋細胞の拍動を直接計測し、伸展刺激に対する拍動の変化をはじめ、心筋の細胞レベルでの力学特性を詳細に調べることを目指している。 前年度までに、心筋細胞の拍動を計測するためのセンサシステムを構築し、フランク・スターリング則が細胞レベルで成立すること、フィードバック制御による強制的な等尺収縮が可能であること、などを見出した。こうした成果を踏まえ、今年度は拍動の時間依存性や温度によるその変化に注目し、拍動計測データの再現性確認や統計的分析を実施した。 可動培養基板上にiPS細胞由来の心筋細胞を播種し、数日から3週間ほど培養した上で、拍動が確認されたサンプル(異なる基板、異なる細胞群)に対して順次拍動計測を行った。いずれのサンプルでも、温度と拍動周波数との間に明確な線形関係が観察されたものの、温度係数(温度に対する周波数の傾き)はサンプルごとに大きく異なり、培養日数や成熟度に強く依存することがわかった。一方、温度軸切片、すなわち、拍動が停止する温度は20.7±2.7℃と比較的安定し、臓器としての心臓にも近い値であることから、心筋細胞としての普遍的、原始的な特徴であることが示唆された。これらの実験結果から、クマやリスなどの冬眠する(20℃より低い温度でも心臓が拍動し続ける)哺乳動物の場合には、細胞レベルでどのような振る舞いをするのかという新たな問題が提起された。
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