研究課題/領域番号 |
18H03762
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
新井 史人 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (90221051)
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研究分担者 |
魚住 信之 東北大学, 工学研究科, 教授 (40223515)
丸山 央峰 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (60377843)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | マイクロ・ナノデバイス / 超精密計測 / ナノバイオ / 機械力学・制御 / バイオ関連機器 |
研究実績の概要 |
オンチップで計測環境状態を時空間的に制御し,異なる環境刺激下における粘弾性の変化をみることで,ラン藻の生体膜で機能するイオンチャネルによる環境適応能力を調べることが目的である.今年度は,計測技術および環境制御技術の理論的,実験的な実現可能性について検証することとし,計測実験のための基礎検討を行った. A.微細加工・システム構築: 細胞をマイクロ流体チップ内の流路を連続的に流して,計測点に搬送するための基礎的な検討を行った.チップ外部への流体の漏れを考慮して,流路の上流と下流のポンプ制御を連動させることで細胞を位置決めする方法の有効性が確認できた.また,チップ底面のガラス基板をウェットエッチングによって三次元的に加工する方法を考案した.細胞を流して導入する際に,流れを連続的に整流し,細胞の詰まりが防止できる効果を確認した. B. 動的機械特性計測: 細胞の粘弾性を計測できる実験系の検討を行った.実験系を構築して,プローブの変位を検出できることを確認した.また,マイクロ流体チップ方式とは別に,AFMを用いて,ラン藻の粘弾性を計測する基礎実験を行った.キャリブレーション用にPDMS製のマイクロビーズを作成し,粘弾性計測を行った.AFMの計測環境の溶液を置換する基礎検討を行い,コンセプト立案まで実施した. C. 環境制御・計測: 蛍光ゲルセンサを利用した非接触の環境計測のための基礎実験を行った.センサは,ハイドロゲルに蛍光試薬であるFITC,Rhodamine Bを分散し,温度,pHの時空間環境計測が可能であることを確認した. D. 細胞計測・評価・機能解析: ラン藻の生体膜の機能に関与する遺伝子の不活化株を相同的遺伝子組換え技術によって作成した.また,他の細胞でも比較実験ができるようにイースト菌に関してもサンプルを準備した.これらを定期的に用意して,計測実験用にサンプル供給した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
異なる環境刺激下におけるラン藻の粘弾性の変化を定量的に評価することを目指し,今年度は,計測技術および環境制御技術の理論的,実験的な実現可能性について検証することとした.細胞計測と機能解析の目的に即し,計測実験のための基礎検討を計画通りに行ったため,順調に進捗しているといえる. A.微細加工・システム構築: 微細加工によるオンチップロボット設計,並びに計測系全体のアーキテクチャの設計技術基盤の構築を推進できたといえる.システムを統合して,ラン藻を用いた一連の実験を進めるまでには至っていないが,これは来年度も継続する. B. 動的機械特性計測: これまで,ラン藻の弾性計測は実現できていたが,粘性計測はできなかったため,粘弾性を計測できる実験系の基礎検討を行った.また,マイクロ流体チップの方式とは別に,AFMを用いて,ラン藻の粘弾性を計測できる実験系も準備している.まだキャリブレーションなどの調整が必要ではあるが,見通しを立てることができた. C. 環境制御・計測: 蛍光を用いて,環境マルチパラメータ計測の基礎実験を行った.センサの構造体にはハイドロゲルを利用することで,蛍光試薬の拡散により退色の影響を低減できることがわかった.これは硬化剤の濃度などの影響があることが実験的にわかってきたため,今後のセンサを調整することで,長時間の安定計測が期待できる. D. 細胞計測・評価・機能解析: ラン藻だけでなく,他の細胞でも比較実験ができるように,今年度はイースト菌に関してもサンプルを準備し,計測システムの再現性の評価も検討していく.
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今後の研究の推進方策 |
今後は力計測系と溶液置換系を改良し,各計測機能の統合実装する.また,環境制御系および動的な粘弾性計測系を実装し,安定性の向上,適切な分解能の実現,測定レンジの調整,キャリブレーションを行う.また,ラン藻を用いて,計測条件変化にともなう信号変化を観測し,計測対象の遺伝子発現の分析を行う. A.微細加工・システム構築: 引き続き,マイクロ流体チップの方式において,機構並びに計測系全体のアーキテクチャの設計基盤の構築を推進する.まず,動的力センシングのための機構設計,および駆動制御の構築,改良を行う.また,AFMを用いた計測系も並行して進め,比較実験を進める.AFMの計測環境の溶液置換,フローシステムなどの統合設計・解析を推進し,環境計測制御と粘弾性計測を同時に実施することが可能な統合化システムを設計して構築する. B. 動的機械特性計測: 引き続き,マイクロ流体チップ方式により,ラン藻の粘弾性計測を行う.また,AFMを用いた計測系を用いて,ラン藻の粘弾性の動的な変化を計測する.得られた結果より,マイクロ流体チップ方式による計測結果とAFMを用いた計測系による計測結果を比較する. C. 環境制御・計測: 引き続き,計測環境の化学種濃度制御,および,蛍光ゲルセンサアレイを利用した非接触の環境マルチパラメータ計測を推進する.環境計測に用いるハイドロゲル構造体は,UV硬化により実装し,安定した環境計測を実現する.また,AFMを用いた計測系で,局所的に溶液を置換して濃度を安定化する制御系を構築してその特性を評価する. D. 細胞計測・評価・機能解析: 引き続き,ラン藻の生体膜で機能する輸送体および細胞体積調節蛋白質の遺伝子の不活化株を相同的遺伝子組換え技術によって作成し,動的な環境変化(刺激)によるラン藻の力学的特性計測と評価を,正常株と比較する.
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