研究課題/領域番号 |
18H03768
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤本 博志 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (20313033)
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研究分担者 |
堀 洋一 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (50165578)
居村 岳広 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任講師 (30596193)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電気自動車 / ワイヤレス給電 / インホイールモータ / モーションコントロール |
研究実績の概要 |
自動車が走行中に排出するCO2を限りになくゼロに近づけるために,世界中の自動車メーカは電気自動車(EV)の開発を進めている。しかしながら,現在のEVは航続距離に問題があり,その普及が妨げられている。 バッテリの大型化をすることなく,この問題点を解決するために,道路の一部に送電用コイルを敷設し,走行中のEVに無線で給電する研究が世界中で行われている。申請者らは,その究極のかたちとして,車輪内に駆動用モータと蓄電デバイスを配置し,その車輪に路面から直接電力を供給する,ワイヤレスインホイールモータ方式を提案している。 本研究課題では,本技術をさらに発展させるため次世代ワイヤレスインホイールモータのための基盤的研究を行っている。さらに開発した技術を他の応用分野に発展させるための検討を進めている。 申請者らが既に開発した第二世代ワイヤレスインホイールモータ(W-IWM2)は,世界で初めて走行中給電に対応したインホイールモータの開発に成功したものではあるが,多くの部品が車輪の外にはみ出し,その搭載性が大きな課題となっている。そこで次世代WIWMの一つの候補として,本研究では車輪内に受電コイルを搭載しIWMに給電するという未踏の研究に挑戦している。 2018年度は,タイヤ内に磁性材料を添加し磁気回路を構成することにより,路面コイルからIWMユニットにタイヤを経由して電力を送る基礎検討を行った。等価磁気回路を用いた設計法を確立し,コイルを設計・試作してミニモデルにて基礎実験を行ったところ,90%以上の高効率が期待できることを明らかにした。 また2018年度には,開発した多段階ワイヤレス給電技術の,他分野への応用に関する基礎研究も行い,その中で半導体・液晶露光装置の超精密位置決めステージのワイヤレス化において成果を出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述したように本研究では,大きく分けて2つのテーマに取り組んでいる。まず第一の課題が,第二世代ワイヤレスインホイールモータで課題になった搭載性を改善するために,これを劇的に小型化するための研究である。すなわち次世代ワイヤレスインホイールモータの一つの候補として,車輪内に受電コイルを搭載しIWMに給電するという未踏の研究に挑戦している。これは路面からタイヤを介してIWMユニットや車体側に電力を送る構成であることを意味する。路面コイルから車輪内蔵コイルに給電することで走行中給電におけるコイル間ギャップが極めて小さくなるため高効率に電力を送ることが期待でき,さらにコイル間に異物が入るリスクもほとんどなくなる。 これを実現するための構成案を複数検討したのち,2018年度はタイヤ内に磁性材料を添加し磁気回路を構成する案に注力した。調査の結果,この構成は例えばランフラットタイヤ内のサイド補強部を利用すれば十分に実現の可能性があることが分かった。そこでミニモデルを試作し,理論解析と基礎実験を行ったところ,90%以上の高効率が期待できることを明らかにした。 それ以外にも,受電コイルの周辺金属が効率に与える影響の研究や,軽負荷時に送電効率が低下する問題を解決する制御,受電開始時の結合が弱い状態での過渡応答改善制御や,停車中給電と走行中給電が混在する準走行中給電と呼ばれる状態での制御法など多くの基礎研究を行うことができた。 また第二の課題として,開発した多段階ワイヤレス給電技術を他分野に応用に関する基礎研究も行ったが,その中で半導体・液晶露光装置の超精密位置決めステージのワイヤレス化において成果が出た。具体的には試作ステージが完成し,1次側電圧の最適制御による効率を最適化する研究を行い,1軸での動作試験までが完了した。 以上より,本研究は予定通りおおむね順調に進んでいると結論づけることができる。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は第一に,上述した磁気回路方式の研究をさらにすすめ,実物大の装置への拡張や漏洩磁界についての検討をすすめる。さらに,タイヤのベルト材料とホイールの材質および受電コイルの構造を工夫すれば,磁気回路や中継コイルを経由せずとも,路面コイルからタイヤを透過して車輪内受電コイルに直接的に高効率無線給電ができる可能性を見出した。そこで2019年度は第二に,様々なタイヤ・ホイール材料の80~90kHz帯における電気磁気特性の調査をして,車輪内コイルの最適形状設計を行うことにより,この方式の実現可能性を探る。 またタイヤに内蔵したコイルを中継コイルとして利用し路面コイルからインホイールモータユニットに電力を送る方式も引き続き検討する。この構造ではタイヤには複数のコイルを内蔵するため,これまでの走行中給電にはない以下のような課題がある。 (1) 路面側からみると給電対象のタイヤ内蔵コイルやその位置が変化し,さらにタイヤ内蔵コイルからみると車体側のコイルの位置が常に移動する多段構成,(2) 電力を受けているコイルが走行中に入れ替わるなかでのパワーフロー制御,(3) 路面コイルから受電するコイルが次々と入れ替わることによる過渡的な電流の激しい変動,(4) これまでの回路トポロジーとは異なり複数の中継コイルが存在するため新たな検討が必要 また路面コイルに対して最適な位置に電気自動車を制御するための運動制御技術や過渡応答制御技術を引き続き開発を続ける。 相対位置が変化するコイル間の多段階ワイヤレス給電には多くの課題があるものの,これらの課題を解決することにより今まで考えられなかったような応用が可能である。例えば飛行中の複数のドローンや電動スカイカーへの給電,宇宙機への応用への展開が期待できる。本研究では開発した移動中ワイヤレス給電技術の,他分野への応用も引き続き検討を進める。
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