研究課題/領域番号 |
18H03771
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
喜多 浩之 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (00343145)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 電子・電気材料 / パワーデバイス / SiC / MOSFET / イオン打ち込み / 格子歪み / 熱処理 |
研究実績の概要 |
1)熱酸化で形成するSiC MOS界面の欠陥密度は水蒸気雰囲気中の熱処理で改善できるが,同時に酸化膜中に新たな欠陥構造が導入されて信頼性が低下するという課題があった。既に効果を実証した~800℃での低温水蒸気雰囲気中での熱処理に代えて,濃度を~数%に希釈した水蒸気雰囲気中で1300℃の高温短時間とした条件を検討したところ,価電子帯近傍で界面準位密度が大幅に減少するのと同時に,遅い時定数を持つ膜中欠陥の劇的な抑制が可能であることが判明した。熱力学的には水蒸気と炭素の反応が低温ではCO2,高温ではCOを生成し易いという違いがあり,水蒸気による欠陥構造の抑制には処理温度が重要な因子となる。 2)前年度までに,熱酸化反応後にSiCウェハ表面近傍の構造が大きく歪む現象をIn-plane XRD測定から把握していた。その原因の理解のため,歪みの大きさの異なるSiCの赤外光の全反射減衰スペクトルを調査したところ,熱酸化後及び酸素イオン打ち込み+熱処理後のウェハの表面付近には微弱ながらSi-O,C-O,C=Oに帰属可能な赤外吸収ピークが検出され,しかもそれらのピークの強度は,SiC表面でXRDによって観察される歪みの大きさとよく相関することを発見した。SiC中に侵入した酸素原子が内部で高密度に欠陥構造を形成し,格子を歪ませる現象であると解釈すると説明が可能である。 3) SiCのMOS界面特性は結晶面によって大きく異なり,各面の特性制御指針の違いを明確化することは本研究の重要な課題の1つである。NOアニールによる界面の窒素パッシベーションに伴うSiO2/SiCバンドアライメントの変化の挙動が (0001),(000-1),(11-20)の3者で異なり,さらに,この違いがMOSキャパシタのリーク電流に強く影響することを明確化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の根幹であるMOS界面の特性を変えるためのプロセスの検討に進展があり,特に水蒸気を用いる熱処理の条件を変える効果の検証が進み,これらのプロセスによる界面構造の違いの解析へ展開している。 構造歪みとMOSFET特性の関係の明確化のための,機械的な歪みを意図的に与える実験に加え,種々プロセスがバンドアライメントに与える効果の面方位による違いを調査する実験も新たに進行中であり,次年度のうちに重要な事項の検討が進展する目途が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
水蒸気アニール処理や界面窒化処理などの界面特性を改善するプロセスによる,界面歪みや電子構造などの物理的な変化と,界面近傍での欠陥準位の増減との相関の検討に加えて,本研究で新たに発見したプロセス起因のバンドアライメントの変化についても明確化を目指す。特に,SiCの結晶面方位によって生じる違いは重要な知見となるものであると考え,その点に着目した検討を行う。 界面近傍の欠陥準位の評価においては,当初から予定していた波長を制御した光照射下でのバイアス印加によってエネルギー的に深い準位の電荷捕獲を評価する手法だけでなく,測定温度によって各準位への捕獲の時定数が大きく変わることに着目して,測定温度を液体窒素温度から高温まで様々に変えて,幅広い時定数の捕獲準位を区別しながら評価する手法を適用する。 また,界面近傍の構造歪み量の評価には引き続き斜入射のX線回折による解析を用いるが,その観察対象を従来よりも広げ,特に従来より標準的なパッシベーション手法として用いられてきた界面窒化後の界面や,水素によるSiC表面エッチング反応後の界面についての調査を行う。
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