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2019 年度 実績報告書

匂いバイオセンサを用いた香りの再現

研究課題

研究課題/領域番号 18H03773
研究機関東京工業大学

研究代表者

中本 高道  東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (20198261)

研究分担者 神崎 亮平  東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (40221907)
研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2021-03-31
キーワード嗅覚受容体 / 匂いバイオセンサ / 能動センシング / 嗅覚ディスプレイ / 水晶振動子センサ / 混合臭濃度定量 / 要素臭 / 蛍光応答
研究実績の概要

嗅覚受容体発現細胞の作出では、キイロショウジョウバエの嗅覚受容体(Or82a、Or49b)を、共受容体およびカルシウム感受性蛍光タンパク質とともに遺伝子導入したSf21細胞から細胞系統を選抜することにより、数か月の培養後も対象臭に対して高い応答性を維持する細胞系統を作出した。作出した細胞系統の匂い選択性を評価した結果、Or82a細胞系統はゲラニルアセテートに高い選択性で応答する一方、Or49b細胞系統は2-メチルフェノールやベンズアルデヒドといった匂い物質に広く応答することが分かった。また、濃度応答性を評価した結果、いずれの細胞系統も対象臭に対して1uMから濃度依存的に蛍光強度を増加することが分かった。以上により、匂い検出素子として、長期間にわたり嗅覚受容体の選択性に従って対象臭を検出できる2種類の細胞系統の作出を完了した。
次に蛍光応答測定の繰り返し数を増大させることを行った。蛍光退色を低減するために、励起光の強度を弱くすることにより退色の問題を解決した。その結果、これまで数回程度しか連続測定できなかったのが、20回連続測定が可能になった。そこで、能動センシング法を用いて、1-octen-3-ol, geosmin混合臭の濃度定量を行った。嗅覚受容体応答は非線形性が強く線形重ね合わせが成り立たないが、粗い濃度定量は可能であることがわかった。
それから水晶振動子を使用した匂いバイオセンサでは応答測定は可能であるが、高湿度下ではセンサ応答がなかなか安定させることができなかったため、薄い液膜を水晶振動子上に保持する等の手法が必要になる。
嗅覚ディスプレイに関してはSAW霧化器とマイクロディスペンサを用いて20成分調合可能な嗅覚ディスプレイを製作した。当初、調合が不完全であったがユーザに香りを送るファンの位置を調整することにより、適切に調合された香りを作り出すことができた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

嗅覚受容体発現細胞の作出では、2種類の嗅覚受容体を対象に、匂い検出素子として、長期間にわたって対象臭を検出できる細胞系統を作出することに成功した。現在までに、このような対象臭を検出できる複数種類の細胞系統の作出に加えて、嗅覚受容体を遺伝子導入したSf21細胞から匂い検出素子となる細胞系統を選抜する一連の手法の確立を達成しており、本手法を多数の嗅覚受容体に適用することが可能となってきた。
また、能動センシング法は逐次探索の手法のために繰り返し測定の再現性が重要である。蛍光応答測定における励起光強度を調整することにより、これまでより飛躍的に繰り返し測定数を増加させることができ、その結果能動センシング法を適用可能になった。この点は2019年度の大きな成果である。しかし、水晶振動子を用いた匂いバイオセンサに関してはごくわずかの湿度変化にセンサが応答したりするので、まだ十分とは言えないので次年度改善する。
嗅覚ディスプレイに関しては、20成分嗅覚ディスプレイを開発することができた。SAW霧化器とマイクロディスペンサを用いた嗅覚ディスプレイは、1成分、8成分と成分数を増加させてきて、今回20成分調合嗅覚ディスプレイを開発することができた。精油の香りを再現するためには20成分程度の調合が必要である。次年度はこの装置をさらに改良して、香り再現精度を官能検査で確かめる予定で順調に進展している。
以上より、おおむね当初の計画通りに研究が進展している。

今後の研究の推進方策

嗅覚受容体発現細胞の作出では、これまでに確立してきた細胞系統の作出手法を多数の嗅覚受容体へと発展させて、最終目標である異なる対象臭を検出する多くの細胞系統の作出を目指す。その推進方策としては、データベースで匂い応答特性が明らかなキイロショウジョウバエの多数の嗅覚受容体を対象に、確立した手法に従って蛍光応答を示す細胞系統を作出し、各種匂い物質に対する選択性や濃度応答性を明らかにする。そして、データベース中の応答特性と比較することにより、生体がもつ応答特性と類似した蛍光応答を示す10種類以上の新規細胞系統を作出する計画である。
混合臭の濃度定量に関しては、今後成分数を拡張して実験を行う。2019年度は2成分の基礎実験であったが、2020年度は4成分以上に拡張して濃度定量を行う。そして、対象臭と濃度定量で得られた調合臭を比較して類似した香りが生成できるかどうかを調べる予定である。
水晶振動子を用いた気相測定は来年度はネットワークアナライザとマイクロディスペンサを組み合わせて薄い液膜を精度よく保つ方法を検討する。嗅覚受容体表面に薄い液膜を精度よく保持することは、匂いバイオセンサの性能を引き出す上で大変重要である。本手法は新規性の高い方法であり2020年度に挑戦したい。
嗅覚ディスプレイに関しては、まだ安定性を増すためにハードウエアの改善が必要である。来年度はマイクロディスペンサと小型送液ポンプを組み合わせた方法を検討する。しかし、大規模な調合可能な嗅覚ディスプレイの骨格は既にできており、この嗅覚ディスプレイを用いて精油の香りの近似的再現を試みる。その後、精油の要素臭構成比をライブラリ化して様々な香りを迅速に変えて提示できるシステムにしたい。

  • 研究成果

    (42件)

すべて 2020 2019 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (32件) (うち国際学会 7件、 招待講演 11件) 図書 (1件)

  • [国際共同研究] Univ. Manchester(英国)

    • 国名
      英国
    • 外国機関名
      Univ. Manchester
  • [雑誌論文] 嗅覚ディスプレイのハードウエア及び応用コンテンツの研究動向2020

    • 著者名/発表者名
      中本、赤羽
    • 雑誌名

      においかおり環境学会誌

      巻: 51 ページ: 19-25

  • [雑誌論文] 細胞画像処理を用いた匂い識別手法2020

    • 著者名/発表者名
      祐川、中本
    • 雑誌名

      アグリバイオ

      巻: 4 ページ: 49-52

  • [雑誌論文] においセンシングシステムの研究動向2020

    • 著者名/発表者名
      中本高道
    • 雑誌名

      センサイト

      巻: - ページ: -

  • [雑誌論文] Odor Discrimination Using Cell-based Odor Biosensor System with Fluorescent Image Processing2019

    • 著者名/発表者名
      Yuji Sukekawa, Hidefumi Mitsuno, Ryohei Kanzaki, and Takamichi Nakamoto
    • 雑誌名

      IEEE Sensors Journal

      巻: 19 ページ: 7192-7200

    • DOI

      10.1109/JSEN.2019.2916377

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 嗅覚及び力覚インタフェースを用いたマッチモーダルVR環境の開発2019

    • 著者名/発表者名
      赤羽、高橋、佐藤、中本
    • 雑誌名

      日本VR学会論文誌

      巻: 24 ページ: 69-76

    • DOI

      10.18974/tvrsj.24.1_69

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Optimization of Modulation Methods for Solenoid Valves to Realize an Odor Generation System2019

    • 著者名/発表者名
      M. Aleixandre, K. Nakazawa, T. Nakamoto
    • 雑誌名

      Sensors

      巻: 19 ページ: -

    • DOI

      10.3390/s19184009

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] ヒューマン嗅覚インタフェース2019

    • 著者名/発表者名
      中本高道
    • 雑誌名

      アロマリサーチ

      巻: 20 ページ: 356-361

  • [雑誌論文] 嗅覚受容体発現細胞の蛍光画像を利用したにおいの識別手法の検討2019

    • 著者名/発表者名
      祐川、光野、神崎、中本
    • 雑誌名

      においかおり環境学会誌

      巻: 50 ページ: 407-415

  • [学会発表] 嗅覚受容体センサアレイを利用した能動センシング匂い濃度定量に向けた基礎的検討2020

    • 著者名/発表者名
      祐川侑司,永吉慶人,中本高道
    • 学会等名
      電気学会ケミカルセンサ研究会
  • [学会発表] 板倉・斎藤擬距離を用いた深層学習による 匂い印象予測モデルの研究2020

    • 著者名/発表者名
      伊藤慶祐,中本高道
    • 学会等名
      電気学会ケミカルセンサ研究会
  • [学会発表] Virtual environment with smell using wearable olfactory display and computational fluid dynamics simulation2020

    • 著者名/発表者名
      T.Nakamoto, T.Hirasawa, Y.Hanyu
    • 学会等名
      2020 IEEE Conference on Virtual Reality and 3D User Interfaces (VR)
    • 国際学会
  • [学会発表] Characterization of Quartz Crystal Microbalance with Viscous Sensing Film for Odor Sensing Application2020

    • 著者名/発表者名
      Sawit Na songkhla, and Takamichi Nakamoto
    • 学会等名
      IEEJ annual meeting
  • [学会発表] 液滴霧化装置を用いた20成分調合型嗅覚ディスプレイの開発2020

    • 著者名/発表者名
      安田雄大 ,中本高道
    • 学会等名
      電気学会全国大会
  • [学会発表] 熱源障害物が匂い濃度分布に与える影響の数値流体シミュレーション2020

    • 著者名/発表者名
      首藤悠汰、中本高道
    • 学会等名
      電気学会全国大会
  • [学会発表] Optimization of the measurement time of a Room Temperature Ionic Liquids based electronic nose2020

    • 著者名/発表者名
      Aleixandre Manuel,中本高道
    • 学会等名
      電気学会ケミカルセンサ研究会
  • [学会発表] ヒューマン嗅覚インタフェース2019

    • 著者名/発表者名
      中本高道
    • 学会等名
      TMS研究会
    • 招待講演
  • [学会発表] Research Demo of Virtual Olfactory Environment Based on Computational Fluid Dynamics Simulation2019

    • 著者名/発表者名
      Y.Hashimoto, S.Kato, T.Nakamoto
    • 学会等名
      IEEE Virtual Reality
    • 国際学会
  • [学会発表] ROOM TEMERATURE INONIC LIQUIDS AS SENSING COATINGS OF QCM GAS SENSORS TO DETECT DIFFERENT ORGANIC GASES2019

    • 著者名/発表者名
      K.Nakazawa, A.Manuel, T.Nakamoto
    • 学会等名
      ISOEN2019
    • 国際学会
  • [学会発表] Prediction of Odor Descriptor Group of Essential Oils from Mass Spectra using Machine Learning2019

    • 著者名/発表者名
      T.Debnath, D.Prasetyawan, T.Nakamoto
    • 学会等名
      ISOEN2019
    • 国際学会
  • [学会発表] Wearable Olfactory Display with Less Residual Odor2019

    • 著者名/発表者名
      S.Kato, T.Nakamoto
    • 学会等名
      ISOEN2019
    • 国際学会
  • [学会発表] COMPARISON OF NMF WITH KULLBACK-LEIBLER DIVERGENCE AND ITAKURA-SAITO DIVERGENCE FOR ODOR APPROXIMATION2019

    • 著者名/発表者名
      D.Prasetyawan, T.Nakamoto
    • 学会等名
      ISOEN2019
    • 国際学会
  • [学会発表] Discrimination of alcohols based on cyclic voltammogram patterns of PANI/Pt electrode gas sensor2019

    • 著者名/発表者名
      Parthojit Chakraborty, Yu-An Chien, Tso-Fu Mark Chang, Masato Sone, Takamichi Nakamoto
    • 学会等名
      SICE 2019
  • [学会発表] ヘルスケアに向けた嗅覚センサ2019

    • 著者名/発表者名
      中本高道
    • 学会等名
      日本生体医工学会大会
  • [学会発表] ヒューマン嗅覚インタフェースの研究2019

    • 著者名/発表者名
      中本高道
    • 学会等名
      日本電気計測器工業会
    • 招待講演
  • [学会発表] Cell-based QCM Biosensor for Detecting Odorant in Gas Phase2019

    • 著者名/発表者名
      L. Deng, Y.Sukekawa, H.Mitsuno, R.Kanzaki and T.Nakamoto
    • 学会等名
      令和元年度電気学会センサ・マイクロマシン部門総合研究会
  • [学会発表] Odor Biosensor Using Odorant Binding Protein and Olfactory Receptor2019

    • 著者名/発表者名
      H.Deng, Y.Sukekawa, H.Mitsuno, R.Kanzaki, K.Perdsud, Cali and T.Nakamoto
    • 学会等名
      令和元年度電気学会センサ・マイクロマシン部門総合研究会
  • [学会発表] 機械学習を用いた匂いの印象予測2019

    • 著者名/発表者名
      中本高道
    • 学会等名
      技術情報協会
    • 招待講演
  • [学会発表] Human olfactory interface2019

    • 著者名/発表者名
      T.Nakamoto
    • 学会等名
      Asia Pacific Healthcare Sensing workshop 2019
    • 招待講演
  • [学会発表] Olfactory display and its application2019

    • 著者名/発表者名
      T.Nakamoto
    • 学会等名
      IDW'19
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] におい研究の最前線~ヒューマン嗅覚インタフェースとその応用2019

    • 著者名/発表者名
      中本高道
    • 学会等名
      情報通信機構
    • 招待講演
  • [学会発表] 大規模マススペクトルデータと機械学習を用いた匂い印象予測2019

    • 著者名/発表者名
      伊藤慶祐, 中本高道
    • 学会等名
      センサマイクロマシンと応用システムシンポジウム
  • [学会発表] 液滴霧化装置を用いた20 成分調合型嗅覚ディスプレイの開発2019

    • 著者名/発表者名
      安田、中本
    • 学会等名
      日本VR学会
  • [学会発表] 嗅覚及び力覚インタフェースを用いた卓球リフティングゲームの開発と評価2019

    • 著者名/発表者名
      呂、赤羽、中本
    • 学会等名
      日本VR学会
  • [学会発表] ウェアラブル嗅覚ディスプレイを用いた災害シミュレータの実演2019

    • 著者名/発表者名
      平澤達也,羽生雪子,赤羽克仁, 中本高道
    • 学会等名
      日本VR学会
  • [学会発表] Study of Quartz Crystal Microbalance behavior with viscous sensing film2019

    • 著者名/発表者名
      Sawit, T.Nakamoto
    • 学会等名
      Sensor Symp
  • [学会発表] ヒューマン嗅覚インタフェースと食品への応用2019

    • 著者名/発表者名
      中本高道
    • 学会等名
      食品開発展2019
    • 招待講演
  • [学会発表] ヒューマン嗅覚インタフェースの現状2019

    • 著者名/発表者名
      中本高道
    • 学会等名
      大阪電気通信大学情報学研究所 視覚情報学講演会
    • 招待講演
  • [学会発表] 昆虫の嗅覚に学ぶセンシング技術2019

    • 著者名/発表者名
      光野秀文、照月大悟、櫻井健志、神崎亮平
    • 学会等名
      科学技術者フォーラム
    • 招待講演
  • [学会発表] 昆虫の嗅覚機能を活用したセンシング技術の実用化への取組み2019

    • 著者名/発表者名
      光野秀文、照月大悟、櫻井健志、神崎亮平
    • 学会等名
      センサ&IoTコンソーシアム公開シンポジウム
    • 招待講演
  • [学会発表] 昆虫の嗅覚のしくみとバイオセンシング技術への応用2019

    • 著者名/発表者名
      光野秀文、照月大悟、櫻井健志、神崎亮平
    • 学会等名
      第95回化学センサ研究会
    • 招待講演
  • [図書] Biomimetic Sensing2019

    • 著者名/発表者名
      Nozaki Y., Nakamoto T
    • 総ページ数
      19
    • 出版者
      Humana, New York, NY

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公開日: 2021-01-27  

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