研究課題
単一種類のイオン(例えば水素イオン)をイメージングするだけでなく,同一場所のその他の化学量(ガス,神経伝達物質:ATPやLactateなど,他のイオン:Kイオン,Caイオンなど)を同時に可視化できるマルチモーダルイメージセンサを実現し,シナプスや細胞の相互作用解明のために有用なツールであることを検証することを目的として本研究課題を進めている.2018年度は,本研究課題を2つの側面から取り組んだ.1つめは複数の化学情報を同時に取得する原理検証とプロセス開発である.光硬化性樹脂にATPとアセチルコリンの分解酵素であるアピラーゼとアセチルコリンエステラーゼを包含させて,フォトリソグラフィーによりパターニングした.その結果酵素の失活もなく最低検出感度も変化がないことが確認できた.また,KイオンとCaイオンを同時に画像として検出するため,イオノフォアを包含したPVC膜をインクジェット法でイオンイメージセンサ上に形成し,Kイオンの放出とCaイオンの細胞による吸収を同時に可視化する基盤技術の開発に成功した.また溶液内の残留酸素と水素イオン濃度を同時に可視化できるデバイスの作製にも取り組んだ.水素イオンイメージセンサ上に酸化物半導体であるSnO2薄膜をスパッタ法で形成し,ある条件で処理することで,水素イオン濃度と残留酸素濃度を同時に検出することができた.以上の様に複数の化学情報を同時に取得する原理検証とプロセス開発は順調に進んでいる.2つめに,それぞれの情報のクロストークの抑制手法の検討である.対象物から出たイオンやガスが横方向に拡散すると,画像の空間分解能が低下してしまう.そこで,それぞれが横方向に拡散しないようなMEMS構造体をセンサチップ上に形成し横方向拡散を抑える試みを行い,その効果を検証した.その結果30ミクロンピッチの構造体の作製に成功した.
2: おおむね順調に進展している
3種類のイオン(Kイオン,Caイオン,水素イオン)を同時に検出できるセンサ作製,ATPとアセチルコリンを同時に検出できるセンサの作製と原理検証ができていることなど予定通りに順調に進んでいる.まだ誰もがこれまで誰もが成功してこなかった水溶液中での溶存酸素とイオンを同時に可視しかすることに成功したことは,世界的にも高い評価を得ることになると考え,当初の目的に向かって順調に進んでいると考える.さらに化学物質は光のように光学レンズで拡散を抑えることができないところ,MEMS構造体によりその拡散を抑えることができる可能性を示したことは高く評価したい.現在のところ30ミクロンピッチの構造体であるが,2ミクロンピッチに向けて,製作方法など来年度検討が必要である.
2018年度は研究課題開始の年であるため,原理や製作方法のプルーフオブコンセプトを目標としてきた.その結果,今後解決するべき課題に対して,手法など当初のもくろみが間違いがないことを確認できた.そこで今後イメージセンサの微細化を目指した製作を進める.また作製を行ったチップにより,そのセンサが新たな生命科学現象の解明につなげることができるか,生理学研究者の研究協力者を巻き込みながら,センサ作製に留まらず実用的に使えるものであるか検証を進めながら研究を推進する.
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 6件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
IEEE Transactions on Biomedical Circuits and Systems
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http://int.ee.tut.ac.jp/bio/