研究課題
単一種類のイオン(例えば水素イオン)をイメージングするだけでなく,同一場所のその他の化学量(ガス,神経伝達物質:ATPやLactateなど,他のイオン:Kイオン,Caイオンなど)を同時に可視化できるマルチモーダルイメージセンサを実現し,シナプスや細胞の相互作用解明のために有用なツールの開発を目指した.本年度の最初の成果として本研究課題において目標とする溶存酸素(DO)のイメージングに成功し,と水素イオン濃度(pH)を同時に可視化できるデバイス作製の見通しを立てることができた.10ppm 変化することで30mVの出力変化を捕らえることができ0.1ppm以下の分解能を有することが確認できた.次に脳神経ネットワーク活動において重要な神経伝達物質アセチルコリンのイメージセンサでのマルチモーダル化について取り組んだ結果,2ミクロンメータピッチで乳酸と水素イオンを明確に可視化できる6万画素のバイオイメージセンサを実現できた.一方,検出下限は1マイクロモーラに留まっていたので,それが来年度の課題となる.3つめの開発目標である,圧力とイオンを同時に検出できるイメージセンサの作製に昨年度取り組み,チップ表面の圧力と水素イオンを同時に可視化するイメージセンサの製作プロセスが実現でき,当初の目標を達成できた.
1: 当初の計画以上に進展している
これまで液中の溶存酸素の分布をイメージングできるデバイスは存在していなかった.ところが本研究ではCMOSイオンイメージセンサの入力部に酸化スズ薄膜を堆積させることで,最小分解能0.1ppmで溶存酸素が可視化できるだけでなく,その動きも見ることができた.一方SnO2センサ薄膜は,溶存酸素だけではなくpHにも同時に反応してしまい溶存酸素の変化か,pHの変化かを区別できない問題があったが,本研究では同じセンサチップ上に溶存酸素には応答せず,水素イオン濃度にしか応答しないpHセンサと溶存酸素センサを動じに製作することで,SnO2センサを補正することができることを見いだしたから,上記のように進捗状況を判断した.また,乳酸とpHを動じに可視化することができるセンサの実現である.2ミクロンピッチのpHイメージセンサの水素イオンセンサ画素の隣の画素に金薄膜を交互に堆積させたイメージセンサを実現でき,乳酸と水素イオンを独立に検出できるデバイスを実現できたことは世界初の成果であり大きく評価したい.また乳酸イメージセンサで海馬スライスの化学刺激評価をおこなったところ,海馬の一部から数ミリモーラの乳酸の放出を動画像で可視化できた.その成果は生理化学分野で長年予想されていた,乳酸シャトル仮設を裏付ける初めての結果であり,共同研究を行ったグループとの世界的な共同研究成果を得ることができたことは大きな成果である.圧力とイオンイメージングに関しては,予定通りにpHと圧力分布を動じに可視化できる製造プロセスを開発できた.またあまりにも小さな圧力を件繻子できているようでありその評価方法を次年度検討することになった.
本年度までにワンチップ上で,溶存酸素と水素イオンが動じに検出できた結果を得た.それらの分布を同時に画像としてえるには,画素ごとにSnO2センサ部(溶存酸素センサ部)とTa2O5センサ部(pHセンサ部)を交互に形成する微細加工プロセスを実現しなくてはならない.スパッタ法でそれぞれの膜を堆積するが,フォトリソグラフィ法によるか,レジストによるリフトオフ法によるかを比較検討し,上記の目標を達成する.複数のイオンや神経伝達物質を同意にイメージングするチップは,本年度乳酸と水素イオンを可視化するイメージセンサが実現したので,これを共同研究者と共に,乳酸放出と水素イオン変化が生体でどのようなタイミングで行っているかを観察することを目指したい.その結果を受けて,デバイスの仕様の変更,センサ部の改良に取り組む.圧力とイオンイメージセンサの,画素ごとのパターニングが課題である.共同研究先から提供を受けた圧力検出膜であるPVDF系薄膜には,さまざま傷やゴミが混入しており,2ミクロンピッチでのパターニングは困難であると考え,その薄膜の製造方法から検討をし直すことが必要との考えから,センサ膜製作にもどり開発を行う.その門愛が解決した後に,画素ごとのパターニングに取り組む.
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 7件) 備考 (1件)
Nature Communications
巻: 11,No.712 ページ: 1-9
doi:10.1038/s41467-020-14571-y
IEEE Transactions on Biomedical Circuits and Systems
巻: 13, Issue2 ページ: 352-363
DOI:10.1109/TBCAS.2019.2895069
Sensors
巻: 19, No.7 ページ: 1582
DOI: 10.3390/s19071582
BUNSEKI KAGAKU
巻: 68,No.10 ページ: 783-791
DOI:10.2116/bunsekikagaku.68.783
http://int.ee.tut.ac.jp/bio/