研究課題/領域番号 |
18H03779
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
木本 恒暢 京都大学, 工学研究科, 教授 (80225078)
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研究分担者 |
西 佑介 京都大学, 工学研究科, 助教 (10512759)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 炭化珪素 / 半絶縁性基板 / イオン注入 / 電界効果トランジスタ / 耐環境素子 |
研究実績の概要 |
1) 半絶縁性SiCの電子物性の解明 半絶縁性SiCウェハが市販されているが、半絶縁性を支配する深い準位 (トラップ) や、その起源は未知である。そこで本研究では、SiCの半絶縁性を支配する深い準位を調べるために、半絶縁性SiC基板に特殊なコンタクト構造を設けることにより、Hall効果測定を行った。約900Kまでの超高温Hall効果測定を行うことにより、抵抗率やキャリア密度の温度依存性を明らかにした。この結果から、半絶縁性を支配する欠陥準位は伝導帯底から約1.2 eV下に存在することが示唆された。また、この半絶縁性は1700℃の高温Arアニールや1400℃の高温熱酸化を施しても維持されることを明らかにした。 2) SiC JFETのノーマリオフ動作の実現 SiCは耐環境素子用半導体として優れたポテンシャルを有している。超高温動作集積回路を作製するためには、ゲート酸化膜の信頼性の問題がなく、電圧制御型素子であるSiC相補型JFET(接合型電界効果トランジスタ)が適している。本年度は、SiC相補型JFETの基本特性をシミュレーションにより計算し、相補型素子を作製する上で重要なノーマリオフ特性を得るための条件を明らかにした。特に、独自の横型ダブルゲート構造を採用することにより、従来構造に比べてノーマリオフ動作を維持しながら、高いドレイン電流と相互コンダクタンスが得られることを明らかにした。次に、半絶縁性SiC基板にPおよびAlイオン注入を行うことによって局所的にn型およびp型領域を形成できることを確認した(注入不純物の電気的活性化率:概ね95%以上)。実際に半絶縁性SiC基板へのイオン注入によってnチャネルおよびpチャネルJFETを作製し、両JFETで室温から400℃の温度範囲でノーマリオフ特性を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、半絶縁性SiCおよびイオン注入により作製したSiC JFETの基本特性を明らかにした。研究は概ね当初の計画通り順調に進展している。その具体的な理由は以下の通りである。 「半絶縁性SiCの電子物性の解明」に関しては、独自の試料構造を作製し、超高温でHall効果測定を行うことにより、初めて半絶縁性SiC基板の抵抗率とキャリア密度を直接的に測定することに成功した。また、そのキャリア密度の温度依存性から半絶縁性SiCのフェルミ準位のエネルギー位置を初めて明らかにした。いずれも半導体物性として極めて重要な知見であり、学術的にも工業的にも有意義な成果である。また、半絶縁性SiC基板を用いてデバイスを作製する場合、イオン注入後の活性化アニールや熱酸化処理によって半絶縁性を支配する欠陥密度が減少して半絶縁性が失われる可能性がある。本研究では、このような熱処理による半絶縁性の低下がないことを初めて定量的に明らかにしたことも特筆すべき成果である。 「SiC JFETのノーマリオフ動作の実現」については、独自の横型ダブルゲート構造を採用し、適切なチャネル構造(ドーピング密度とチャネル厚さ)を形成することにより、nチャネル、pチャネルJFETの両方において初めてノーマリオフ特性を達成した。集積化に適した半絶縁性SiC基板へのイオン注入によって良好なJFET動作を得たのは本研究が初めてである。さらに、400℃の高温でもノーマリオフ動作を達成したことは電子デバイス分野で画期的な成果であり、この成果により大規模国際会議の招待講演や学会受賞に繋がった。また、電子デバイス分野で最も権威ある学術雑誌(IEEE Electron Device Letters)の表紙に本成果の図が採用されたことも特筆できる。
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今後の研究の推進方策 |
半絶縁性SiCの電子物性の解明については、超高温Hall効果により抵抗率の温度依存性や半絶縁性を支配する欠陥準位を明らかにした。今後は、基板裏面に適切なオーム性接触、表面にショットキー障壁を形成して電流モードDLTS(Deep Level Transient Spectroscopy)により欠陥準位のエネルギー位置やキャリア捕獲断面積に関する知見を獲得し、SiC半導体における欠陥物理として体系化する。また、イオン注入領域の電子物性と欠陥を明らかにし、半絶縁性SiCへの直接イオン注入による伝導性制御可能な範囲を見極める。高濃度ドープ領域の形成は容易であるが、低濃度ドープ領域を形成する際には、基板に存在する欠陥による補償が無視できなくなるので、特に低濃度ドープ領域の物性と欠陥評価に重点を置く。 次に、SiC結晶に存在する転位が電子デバイスの高温動作に与える影響を調べることも大切である。III-V族半導体では、高温において転位を介して金属の増速拡散が生じ、素子劣化を生じることが指摘されている。室温-200℃の温度では、貫通転位はSiCデバイスの性能や信頼性に与える影響は無視できるほど小さい。しかしながら、400℃以上の超高温における転位の影響を明らかにすることがSiCを用いた高温動作集積回路を実現する上で重要である。 半絶縁性SiC基板への直接イオン注入によりノーマリオフ動作を示すnチャネル、pチャネルJFETを作製することに成功した。そこで、相補型JFETを実現するために、しきい値電圧を精密に制御することに取り組む。注入した不純物原子の横方向拡散を定量的に評価し、チャネル構造を精密に設計することが重要である。上記の研究に目途がつけば、実際にSiC相補型JFETを用いたインバータ回路等を作製し、その回路動作の高温特性を調べてSiC JFETの有用性と課題を明らかにする。
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