研究課題/領域番号 |
18H03786
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
飛龍 志津子 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (70449510)
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研究分担者 |
藤岡 慧明 同志社大学, 研究開発推進機構, 特別研究員 (00722266)
伊藤 賢太郎 法政大学, 生命科学部, 講師 (20528351)
小林 耕太 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (40512736)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生物ソナー / 超音波センシング / 混信回避 |
研究実績の概要 |
本研究は,超音波センシングを行うコウモリの集団飛行中の混信回避メカニズムに着目し,その仕組みの解明及び工学的応用に向けた展開の指向を目的としている.まず室内にといてCF-FM型のキクガシラコウモリに対してラウドスピーカによるプレイバック実験を実施した.複数の同種他個体が同時に飛行する混信状況を人工的に再現し,その際のエコーロケーション性能の変化およびパルス音響特性の変化について調べた.その結果,十分な混信環境であっても障害物回避性能は低下しないこと,一方でパルスの音響特性にはいくつか有意な変化が見られ,特に基本周波数成分の音圧強調が始めて確認された.これよりエコーの周波数帯域を基本波成分まで拡張することで,エコーのS/N比の改善を図っている新しい可能性を示唆するものである.また野外では同じくキクガシラコウモリの洞窟内での集団飛行中の音響行動を,ステレオビデオ及びマイクロフォンアレイを用いて計測した.位置情報を利用することで,多チャンネル収録した音声から特定のコウモリの音声を強調する信号処理を考案し,混信した音声より個体毎の音声に分離することができた.また数個体が列をなして洞窟から出巣する場面では,末尾のFM音に特徴的な変化があること,またこのユニークな音声は,洞窟内での個体数密度が高い場合に頻繁に観測されたことから,CF-FMコウモリの混信回避策に関わっていると強く示唆される.また広帯域空中超音波デバイスを用いた自律走行車の開発を引き続き進めた.広帯域センタの利点を活かし,障害物との距離に応じて送信する信号の特徴を変化させたところ,障害物回避走行の完走率が上昇することを確認した.またラウドスピーカを用いて混信状況を構築し,コウモリが集団飛行時に行う超音波パルスの行動変化の機序を取り入れることで,自身のエコー抽出の性能が向上することを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複数のコウモリを用いた飛行実験は,混信環境の精密な制御や実験の再現性が難しいという問題がある.そこでラウドスピーカを実験室内に複数設置し,複数のコウモリが飛行している様子を模擬するために周波数の僅かに違うCF-FM型音声をランダムに呈示し,単独で飛行するコウモリの行動を調査した.第2倍音をjammingしたところ,基本周波数成分の音圧強調が見られ,また基本周波数のエコーもコウモリの背部に搭載したテレメトリマイクロホンで観測された.キクガシラコウモリは第2倍音に急峻な高い感度を持つことから,エコーロケーションには第2倍音を用いると一般的には考えられており,基本波成分を用いることはこれまで報告がない.調波構造の積極的な制御や利用は,センシングの観点からも非常に利にかなっていることから,超音波運用に関して新たな発見を得ることができたと考えている.また野外の洞窟内での音響動態計測も,海外でも報告がないことから,貴重な野生のキクガシラコウモリの密閉空間における行動を高度に計測することができた.3次元座標の算出もうまくいき,さらに今回は野外計測での大きな課題であった音声の個体分離に対して,新たな手法を試みたところ,マイクロホンアレイで十分なチャンネル数で音声が収録できた場面では,個体毎の音声に分離することができた.その結果,ユニークな音声を発する個体の同定や,どのような場面でそういった音声が発せられるのか,という詳細な分析を野生環境下のコウモリに対して行うことが可能となった.CF-FM型コウモリの混信回避策に関してはほどんど未解明であることから,今回野生下で見られた特徴的な音声は,今後の研究にも大いに役に立つと期待している.広帯域センサを利用した自律走行車の開発では,コウモリの行動機序を搭載することができ,また混信回避に有用であることが,実機を用いた検証からも見出すことができた.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は,室内実験並びに野外においていずれも新しい発見を得ることができた.本来であれば本年度,室内でのプレイバック実験の追加データの取得,また野外では出巣場面の洞窟内外からの同時計測を行い,新たなデータの蓄積を進める予定であった.しかし新型コロナウィルスに関連して,動物を用いた実験や野外調査研究が当面実施できないことから,データ数が十分なものはこのまま解析数を増やし,参考文献の調査など論文執筆を向けた作業を開始する予定である.今後の状況を見ながら,柔軟に対応していく.また自立走行車は,現在高速動作に向けたプログラムの改良作業を進めている.集団走行時の超音波の制御に関しては,シミュレーション上でも検証を行い,実機に搭載する作業を進めていく.こちらも実機を用いた音響計測実験や走行実験は当面実施できないことから,今後の状況を見ながら計画を柔軟に見直していく.
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