研究課題/領域番号 |
18H03792
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大村 達夫 東北大学, 未来科学技術共同研究センター, 教授 (30111248)
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研究分担者 |
片山 浩之 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (00302779)
渡部 徹 山形大学, 農学部, 教授 (10302192)
渡辺 幸三 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 教授 (80634435)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ノロウイルス / 水インフラ / 消毒剤耐性 / 進化 |
研究実績の概要 |
本研究は、「ノロウイルス感染症制御を可能とする水インフラ」の実現を目指すものである。充実した水インフラが整備されている先進諸国であっても、ノロウイルス感染症は制御不可能な状況にある。これは、水インフラの整備が遅れている開発国において病原性の高いノロウイルスの遺伝系統が容易に発生するためと推測される。そこで本研究では、「水インフラ環境が異なる地域間でノロウイルスの進化速度が異なる」との仮説を立て、その実証を試みることを目的としている。 研究初年度である平成30年度は、マウスノロウイルスを用いた精密膜ろ過及び消毒処理による環境選択実験により、精密膜ろ過により除去されにくいマウスノロウイルスの遺伝系統と、消毒剤耐性を有するマウスノロウイルスの遺伝系統を取得すること、及び下水・汚水由来のノロウイルス遺伝子取得を目的とした実験を行った。消毒剤耐性を有するマウスノロウイルスに関しては、遊離塩素に対し有意な耐性を保持する集団の取得に成功した。得られた遊離塩素耐性マウスノロウイル集団、および遊離塩素を用いずに希釈と培養のみを繰り替えした対照マウスノロウイルス集団に対し全ゲノム解析を行ったところ、遊離塩素耐性マウスノロウイルス集団に特異的な遺伝子変異を同定することに成功した。そのうちの1つはVP2と呼ばれるマイナー外殻タンパク質をコードする遺伝子中に存在しており、この変異によりマウスノロウイルス粒子の安定性が向上しているものと推測された。下水・汚水由来のノロウイルス遺伝子取得に関しては、仙台市内の下水処理場で採取した未処理下水から得られたノロウイルス遺伝子配列の取得に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、水インフラの有無によりノロウイルスの進化の程度が異なることを証明することを目的としているが、研究初年度である平成30年度において、世界中で水の消毒に使用されている遊離塩素について、繰返し曝露により遊離塩素耐性のウイルス集団が生じうることが示され、さらに、その遊離塩素耐性がある特定の遺伝子変異によってもたらしうることが示唆される結果を得た。また、消毒剤耐性株に特徴的な遺伝子変異を検出するために、未処理下水中から複数のノロウイルス遺伝子配列を取得することにも成功した。以上の結果から、現在までに本研究は予定通り進行していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究2年度目である平成31年度では、研究初年度に確認された遺伝子変異に関し、実際に遊離塩素耐性をもたらすものか否かを確認するための実験を行う。具体的には、遊離塩素耐性マウスノロウイルス集団から複数の株を単離し、その全長遺伝子配列を確定する。これまでに確認された遺伝子変異を有する株を複数選び、遊離塩素耐性試験を行う。この際、対象となる遺伝子変異を有していない株も複数選び、遊離塩素耐性試験における対照株として用いる。この遊離塩素耐性試験において、株間の遊離塩素感受性の違いが検出された場合には、どの遺伝子変異を持つ株の遊離塩素感受性が変化していたかを確認することで、遊離塩素耐性に寄与している遺伝子変異を同定する。遊離塩素耐性に寄与している遺伝子変異の同定に至った場合には、水環境サンプルから得られたノロウイルス遺伝子配列を参照し、同定した遺伝子変異と同様な変異が見られるか否かを確認する。
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