研究課題/領域番号 |
18H03799
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
横山 勝英 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 教授 (10347271)
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研究分担者 |
千葉 晋 東京農業大学, 生物産業学部, 教授 (00385501)
杉本 亮 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 准教授 (00533316)
板川 暢 鹿島建設株式会社(技術研究所), 地球環境・バイオグループ, 研究員 (00773566)
山本 光夫 東京大学, 海洋アライアンス, 特任准教授 (30361512)
佐藤 克文 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (50300695)
中山 耕至 京都大学, 農学研究科, 助教 (50324661)
劉 丹 有明工業高等専門学校, 創造工学科, 教授 (60390530)
一ノ瀬 友博 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 教授 (90316042)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 河口汽水域 / 溶存酸素 / 地下水 / 鉄・重金属 / ベントス / 仔稚魚 / 陸域生物相 / 工事影響 |
研究実績の概要 |
気仙沼市西舞根川と塩性湿地において,水位,塩分,溶存酸素濃度,地下水流動,鉄・栄養塩及び重金属を測定した.溶存酸素は午前中に上昇して過飽和になり,午後は低下,夜間にゼロまで減少する変動を繰り返していた.水文学的手法とラジウム収支モデルを用いて,舞根湾内への河川水と地下水の流入量およびそれに伴う栄養塩輸送量を定量した.全地下水湧出量に占める淡水成分の割合は3%以下であり,再循環性地下水が湧出の主成分であった.淡水成分の内訳として,地下水が全流出の9%を占めた. ベントス(貝類・甲殻類)分布に関して,多様性のモニタリングおよび十脚類(エビ・カニ類)相の記載を継続した.多様性は過去調査(2014~2015年)と比べて低下したままであった.春の工事後には,顕著な変化は観察されなかった.川と海の間で通し回遊を行う十脚類(エビ・カニ類)の主要種4種に関して,1年間の分布パターンを明らかにした. 動物プランクトンではカイアシ類が優占していた.カイアシ類の主要分類群の密度と環境条件との相関を調べたところ,カラヌス目では溶存酸素量と正の相関が,カラヌス目とキクロプス目では塩分と正の相関が認められた. 両生類の産卵状況,トンボ類の分布・多様度をモニタリングした.サンショウウオの卵のうは前年度より増加していた.トンボ類は前年度に比べて確認種数は横ばいであった.2016年から蓄積してきたドローン空撮画像と植生調査の結果を統合して,植生図を作成した.湿地内の植生を精査するために,干潮時・満潮時の2パターンを作成し,ヨシの分布の経年拡大が認められた. 鳥類(ミサゴ)の糞を採集してDNAメタバーコーディングを用いて,餌資源を推定した結果,ブリのみが検出された.2019年春には舞根湾でも大量のブリが観察されており,ミサゴもブリを捕食していたと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
塩性湿地と東舞根川の接続工事が2019年3月に,西舞根川との接続工事が2019年9月に実施され,これらによる水位・塩分の変化と,底質や生態系の変化状況について,必要なデータを取りそろえることが出来た.湿地内の地下水湧出量を推定する物質収支モデルに関しては,現在もパラメータの修正作業を行っている段階であるが,概ね順調に進んでいる。底質土壌について,開削前後のサンプルについて,間隙水および土壌中の鉄や重金属濃度の分析も進めており,概ね予定通りに調査・分析が進んでいる. ベントス(貝類・甲殻類)分布調査に関して,現時点では河川・湿地工事に伴う顕著な変化はみられていないが,今後,時間遅れでベントス相にも影響することが予想されるため,当初想定した変化を追跡できていると言える.通し回遊を行う十脚類は初期生活史において塩性湿地を利用する種がほとんどであることが明らかとなった.なお,本調査の過程で発見した未記載種(新種)をキタノスジエビと公式に命名した.稚魚の主要な餌生物であるカイアシ類と環境条件との関係を明らかにし,湿地の水交換率向上改修によるカイアシ類への影響と,今後の改善方向性を示すことができた.ほぼ当初の予定通り順調に進捗している.マアナゴとウナギの一日の消費エネルギー量を把握するために,流水水槽を用いた酸素消費速度の測定を実施した. 2012年から継続して,低湿地部全域の両生類,トンボ類の分布状況を取得できており,多様度・分布量の経年変化に関する知見が蓄積できた.2017年度時点の植生図が作成でき,低湿地部の植生被覆の変化と生物分布との対応関係を解析するための体制を整備できた.ミサゴは他の猛禽類と異なりペリットを吐き出さないため,糞を用いて餌資源を推定した.2020年度の調査に向けて,ミサゴの営巣木を確認するなど,概ね順調に進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
湿地工事が終わるまで,塩性湿地・舞根湾奥部において,全調査項目を継続して取得する.2020年度は塩性湿地に東西舞根川から多量の淡水が流入して,塩分・溶存酸素が劇的に変化することが予想され,その影響を調査解析してゆく.底質の間隙水・土壌の分析結果について,水温・塩分・ORPなどの水質計データ,粒度や強熱減量,また生物調査の結果と合わせた総合的な評価を実施する.更には,湿地内外の鉄をはじめとした水質データとの比較を行い,湿地内の環境について明らかにしてゆく.ベントスに関して,河川開削後の多様性の変化を,底質等の物理環境変化と合わせて解析する.過年度の調査結果から,塩性湿地は通し回遊性の十脚類の生活史初期の段階において特に重要であることが推察されたため,今後は初期生活史における塩性湿地の利用様式の解明に焦点を当てる.プランクトンと仔稚魚に関して,発育の進んだ魚ではアミ類などより大型の餌料を利用していると考えられるため,分析対象を拡げて湿地の魚類の栄養構造の全体像を調べる. マアナゴとウナギに関して,安静時と遊泳時の酸素消費速度の測定値が得られているが,データが少ないため,再び捕獲して個体数を増やし,水温による違いにも着目する.捕獲個体に超音波発信機を装着して放流し,塩性湿地と湾内の数カ所に設置する受信機を用いて,行動範囲を測定する.両性類・トンボ類の分布調査と植生図の基本情報となる植生調査を実施する.2017年度時点の植生図をベースに,前後年度の空撮画像から植生図を作成し,低湿地部の植生被覆の変化と生物分布との対応関係を精査する.また,ヨシの被覆拡大前(津波攪乱後)に成立していた植生を把握するため,湿地内の埋土種子の発芽試験を実施する.ミサゴの繁殖期の異なる時期に糞を採取し,DNAメタバーコーディングを用いて分析する.それにより餌資源の変化を明らかにする.
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