研究課題/領域番号 |
18H03811
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柴沼 一樹 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30611826)
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研究分担者 |
鈴木 克幸 東京大学, 人工物工学研究センター, 教授 (10235939)
川畑 友弥 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (50746815)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脆性破壊 / 高速亀裂伝播 / アレスト / 設計 |
研究実績の概要 |
まず,昨年度に確立した有限要素解析に合理的に数値減衰を導入する手法を用いて,鉄鋼材料中を高速伝播する亀裂先端前方の応力場に対し,その支配的因子に関する系統的な検証を行った.その結果,亀裂先端前方の局所応力は亀裂加速度にはほとんど影響を受けないことが明らかとなった(Yanagimoto et al., EFM 218(2019), 106548).さらに,この結果に基づき,従来のモデルにおける局所応力場を高精度化するために,有限要素解析と連成した統合化モデルを開発した.過去の実験データとの比較による検証の結果,従来のモデルに比べて,過去の実験結果の再現性が飛躍的に向上しただけでなく,脆性亀裂伝播停止現象における最も重要な因子である局所応力が,従来のモデルで推定された結果とは大きく異なることが示唆された(Yanagimoto et al., EFM 221(2019), 106660). さらに,PMMA材を用いて継手構造を模擬した小型3次元試験体を制作し,構造因子が亀裂伝播挙動に与える影響の評価を行った.具体的には,まず,寸法の異なる構造不連続部を有する複数の試験体を用意し,高速度カメラを用いた亀裂進展挙動計測を実施した.その結果,詳細な亀裂進展挙動を計測するとともに,継手部に導入した構造不連続により効果的に亀裂を早期停止させることが可能であるという実験事実を得ることに成功した.この構造不連続による亀裂停止性能の向上のメカニズムを解明するために,高速度カメラ計測によって取得した亀裂前縁形状の変化に伴う応力拡大係数の推移を,拡張有限要素法を用いた解析によって検証した.その結果,継手不連続によって極めて効果的に応力拡大係数を低減させることができ,構造体としての脆性亀裂アレスト性能を飛躍的に向上できることが明らかとなった(Kishi et al., IJMS 174 (2020), 105502).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
モデル開発については,想定していた汎用ソフトウェアへの実装が困難だということが詳細な検討を通じて明らかとなりし,本研究の中で解析ソルバー全体を開発する事になった.このため一時的に当初の予定よりも進捗が遅延したが,すでにほぼリカバーすることに成功している.一方,当初の計画にはなかったPMMA材を用いた実験により,継手の不連続部のような構造因子によって脆性亀裂アレスト性能を飛躍的に向上可能であることを示した.
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今後の研究の推進方策 |
重合メッシュ法に基づく動的亀裂伝播解析モデルを2次元問題・3次元問題を対象にして段階的に開発を進める.同時に弾塑性問題への拡張についての検討を始める.2次元問題に関しては,無限体中を高速伝播する亀裂先端前方の応力場であるBrobergの解,3次元問題に関しては,無限体中の静的円形亀裂の漸近解であるSneddonの解を対象として,開発モデルのVerificationを実施する.さらに,昨年度実施したPMMA小型試験の実験に対する比較検証を通じて開発モデルのValidationを実施する.これらのような開発モデルのV&Vを通じてその有効性を厳密に検証するとともに,課題の明確化と修正を行う. PMMA材を用いた実験に関して,今年度の成果は小型試験体を用いた検討に限定されていたが,今年度はより現行の大規模継手構造で用いられる構造様式を忠実に再現し,実用的な亀裂停止性能に関する検証を行う.具体的には,継手を構成する3枚の板部材の位置関係から,実構造で想定される2種類のシナリオを想定した実験的検証を行う.
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