研究課題/領域番号 |
18H03815
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山本 直嗣 九州大学, 総合理工学研究院, 教授 (40380711)
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研究分担者 |
横田 茂 筑波大学, システム情報系, 准教授 (30545778)
森田 太智 九州大学, 総合理工学研究院, 助教 (30726401)
張 科寅 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 研究開発部門, 研究開発員 (40710596)
桑原 大介 中部大学, 工学部, 講師 (60645688)
富田 健太郎 九州大学, 総合理工学研究院, 助教 (70452729)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電気推進 / プラズマ計測 / 異常輸送 / 揺動 / 原動機・推進 / ホールスラスタ / 宇宙推進 / プラズマ |
研究実績の概要 |
人工衛星の重量を半減させたオール電化衛星の成功により、宇宙の推進装置にも電気エネルギーを推進力に変換する電気推進を採用する流れが加速している。オール電化衛星の推進系には、推力電力比が大きいホールスラスタが有力候補であり、JAXAの次期技術試験衛星への搭載が見込まれている。このホールスラスタ開発の鍵となるのが、推力電力比向上を阻害する電子の異常輸送(電子が理論値よりも輸送されやすい)の抑制である。異常輸送の要因として、プラズマの揺動(揺らぎ)が示唆されている。しかしながら従来の計測方法では、原因究明に必要な中性粒子密度等のスラスタ内部の物理量を、十分な精度で測定することが出来ず、異常輸送の物理機構解明に至っていない。そこで異常輸送を引き起こす物理機構を解明することが本研究の目的である。 本年度は、まず、2019年度に実施した揺動計測において顕在化した課題の対処を行った。この課題であるノイズの低減や真空中に設置した送受信器の除熱強化等の改善に取り組み、改善後に揺動の時空間構造の観察に取り組んだ。具体的には、4周波数同時照射型干渉計で用いられている4つの局部発振器を変更しMHz程度のノイズ成分を大幅に除去することに成功した。また、送受信器の除熱機構を改善し、5時間以上の連続計測が可能になった。揺動の解析を行った結果として、揺動間において非線形結合していること、また、特定の揺動の大きさと異常輸送に定性的な相関がある事が明らかになった。 数値解析においては、これまでのフルPICシミュレーションで確認できたプルーム領域での電場揺動と、それによって生じる磁場を横切る電子の異常輸送の再現により、実スラスタのシミュレーションが可能になりつつある。解析ツールの高速化にも取り組むことで、開発中のスラスタにおいて、シミュレーションと実験の比較を行い、よい一致を見せた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
揺動計測システムに関して、ノイズ低減に成功し、場所毎の感度を比較できるように改良するなど、計測の精度が向上した。また、真空中にマイクロ波発振器を設置するため問題となった、発振器の廃熱に関しても計測装置の大幅な改良を行い、連続計測に成功するなどの、計測系の着実な進展が見られた。 計測結果に関しても、揺動同士が非線形結合していること、また特定の揺動と電子輸送に相関があることを確認するなど、モデル化にとって必要な観測結果を得ることができた。また条件によって、測定位置の間の相関関係が変わることも明らかになるなど、揺動に関する知見が増えた。 数値解析においても、膨大な数値解析コストを必要とする第一原理的計算の高速化に取り組み、小型のホールスラスタではあるが、実機と比較を行い、電流や推力は実験値とほぼ同等であり数値解析の妥当性が示されるとともに、波数20-50 cm^-1, 周波数10-20 MHz の電場揺動が観察されるなど、当初の計画以上に進展して、成果を上げてきている。 ピコ秒計測システムに関しても、現有のピコ秒レーザーではエネルギーが足りないため、ナノ秒パルスYAGレーザーのパルス圧縮を行った。パルス圧縮に必要なピコ秒パルス圧縮用誘導ブリルアン散乱装置の製作し、パルス圧縮後で50 mJ程度以上の十分なエネルギーが確保できることを確認している。現在は圧縮後のパルス幅を正確に知るため、非線形光学結晶を用いたオートコリレーターシステムの作製を進め、ほぼ完成している。 これらの理由から、十分な進展がああり、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度はコロナの影響があり、当初の計画通りの研究は実施できず、計画を変更して研究を実施した。しかしながら、いくつかの重要な成果を上げることができた。異常輸送と揺動に相関関係があることが明らかになった。さらにその揺動は他の揺動との間に相関関係が確認された。そこで、この揺動の時空間構造を明らかにするために、引き続き多点マイクロ波干渉法による揺動計測を行う。周方向だけではなく軸方向の構造も計測可能か、計測システムの改築を行い、これを確かめる。 令和2年度に引き続き揺動の物理モデル構築を行う。多点計測の結果から得られる揺動の時空間構造より、相関関係が見られた揺動間のエネルギーフローをモデルから明らかにする。さらに構築した揺動モデルから異常輸送の要因と考えられる揺動抑制のための指針を得る。 また、異常輸送との強い相関が見られた揺動がイオンの揺らぎなのか、中性粒子の揺らぎなのか、電子の揺らぎなのか、イオンと中性粒子の揺動を計測しながら特定していく。 異常輸送の定量的な把握のため、中性粒子及び電子密度及び電子速度計測に関しても引き続き計測精度の向上に取り組む。引き続きピコ秒レーザーを用いた計測システムに取り組む。その過程において問題となるノイズである迷光除去のために、狭帯域のノッチフィルタの改良に取り組むと共に、ヨウ素フィルタによる迷光除去を検討し、精度向上につなげる。 数値解析に関しては、ホールスラスタ内部で見られた揺動がどのような物理に基づく揺動なのか、その揺動の時空間構造を数値解析からも明らかにしていく。その揺動の基点がどこにあるのかを特定すると共に、揺動の駆動力が何であるのかを解明する。 このようにして、揺動のメカニズムを解明し、揺動と異常輸送の関係を明らかにし、異常輸送低減の指針を得られるように研究を進めていく。
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