研究課題/領域番号 |
18H03820
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
駒井 武 東北大学, 環境科学研究科, 教授 (30357024)
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研究分担者 |
後藤 和久 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (10376543)
中村 謙吾 東北大学, 環境科学研究科, 助教 (30757589)
桑谷 立 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球内部物質循環研究分野, 研究員 (60646785)
川辺 能成 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 主任研究員 (90392604)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 津波堆積物 / 地球化学分析 / スパースモデリング |
研究実績の概要 |
地球化学的調査による高次元データ取得と津波堆積物の統計数理解析に基づき、日本沿岸で過去1万年程度の間に発生した巨大地震津波の頻度を正確に把握することを目的とする。そのため、高密度で堆積物コア試料を地球化学的に分析し、従来の地質データと統合して得られた高次元データをスパースモデリング手法により解析した。この新技術により、各種のイベントや歴史的な事象を数理統計的に差別化して、歴史的な巨大津波による堆積物を高精度で判別できる包括的フレームワークを構築し、日本沿岸における地震津波イベントの頻度、浸水範囲の特定精度を向上させることを目指す。 東日本および西日本の国内数カ所の調査地点においてジオスライサー調査を新規に実施し、津波堆積物のコア試料を収集した。また、産総研および高知大学で保管されている既往のコア試料を対象として地質学的、地球化学的な解析作業を実施した。得られたコア試料は、高知大学コアセンターが所有するコアスキャニング装置により高密度で分析し、元素、有機物、粒径分布、粘土含有量等の分布をマッピングして高次元データを集積した。 特定地域における海洋堆積物と津波堆積物を対象にして、堆積状況に加えて風化や化学的変換に基づく物理化学プロセスに関して統計数理解析を実施した。具体的には、主成分分析や独立成分分析等により地質現象を支配する典型的なプロセスを抽出することで、地質情報を含むデータ駆動に基づいて津波堆積物をほかの堆積物と判別できることを確認した。 スパースモデリング手法を取得した高次元データに適用し、津波堆積物と非津波堆積物の統計数理的な分別に必要な統計数理情報を集積した。また、地質データおよび微化石等を含む津波堆積物の要素モデリングの機械学習を通じて、モデリングの規範となる事象や基底を抽出して、津波堆積物の地球化学特性に基づき津波堆積物の汎化性能を向上させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に予定していた現場調査、試料採取、化学分析およびデータ解析は順調に進捗して、所定の成果が得られている。具体的には、以下の研究項目で大きな進展が見られた。 研究課題1では、引き続き東日本および西日本における歴史的な堆積物堆積物の調査および解析に関する研究を進めた。本研究では、2011.3の東日本大震災の際に堆積した津波堆積物中の物理・化学的特性の評価を実施した。具体的には津波堆積物中の有機炭素量および粒度分布特性を評価するとともに、微量重金属類の溶出特性や含有量を測定し、2011年津波堆積物に関する基礎的データの蓄積を行った。これらの詳細な調査を付加することにより、津波による堆積メカニズムの推定、泥層と砂層の堆積構造、さらには化学的な組成分析により堆積物の起源推定が可能となることが判明した。 研究課題2では、2011年津波堆積物および歴史津波堆積物の調査を実施し、20地点を超えるコア試料の地質学的、地球化学的なデータを集積することができた。また、堆積物や岩石の化学組成データを基に、風化の進行度や各元素の物質移動量を定量的に推定するデータ駆動型解析手法を新たに開発した。この方法は、風化などによって化学組成の改変を被っている古津波堆積物の高精度判別などに大きく貢献すると期待される。宮城県および岩手県で採取した試料について、機械学習を用いた対比法の検討を行った。その結果、岩相対比と整合的な津波堆積物とそうでないものがあり、後者については化学組成以外のプロキシの導入が必要なことがわかった。本研究では、独自に開発したスパースモデリング手法を活用して、収集したデータの中で有意な部分とそれ以外の部分を機械学習により自動的に分別する新技術を導入することが有効であることが判明し、歴史津波堆積物にも適用可能であることが分かった。以上の研究成果は、国際誌論文として公表ずみである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、2か年で得られた膨大なコア試料の分析結果をもとに、地球化学的な解釈、地質学的な判別に加えて、地球化学情報をもとに高精度判別を可能にする手法の確立を図るとともに、研究成果の地震津波防災への適用を推進する。 研究課題1では、収集したコア試料を環境地質学的に解析し、絶対年代指標となる火山活動に起因するテフラや各種イベントの解釈を進める。また、コア試料に含まれる微化石や粘土鉱物等を詳細に分析し、堆積物の起源判定に必要な堆積学的、古生物学的基礎データを集積してデータベースとして整備する。 また、コア試料に含まれる微化石や粘土鉱物等を詳細に分析し、堆積物の起源判定に必要な堆積学的、古生物学的基礎データを収集する。これらの事象と対比するため年代測定も同時に実施し、津波堆積物の堆積年代を確定して既往のデータと照合する。 研究課題2では、上記の解析を通じて確実に歴史津波堆積物として検証されたものは、教師データとして地質情報および地球化学情報を登録するとともに、国内外の各地点における既知の歴史津波堆積物のデータベース化を完了する。 高次元データ駆動解析により歴史津波堆積物とそれ以外の堆積物を高精度で判別し、特有な物性や堆積構造の特徴等の科学的知見や教師データを反映させて、歴史津波堆積物のデータ解析に特化したスパースモデリング手法を確立する。これにより、歴史的な巨大地震・津波イベントの検知、判別および頻度推定を可能にする。さらに、本研究で得られた諸データをGISでマッピングして、歴史津波のイベントの時空間分布を可視化することで、今後の防災・減災に貢献するための科学的基盤を固める。
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備考 |
[受賞] 1.桑谷立 2019年度日本情報地質学会論文賞 日本情報地質学会 2019/6/27 2.駒井 武 第29回環境地質学シンポジウム優秀発表賞 社会地質学会 3.桑谷立 研究開発功績賞(JAMSTEC平成30年度業績表彰) 海洋研究開発機構 2019/4/1 [報道] 1.日経産業新聞 データ不足を補う情報科学 天体や地球内部が鮮明に 2019/10/8
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