研究課題/領域番号 |
18H03823
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川崎 昭如 東京大学, 大学院工学系研究科, 特任教授 (00401696)
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研究分担者 |
森田 敦郎 大阪大学, 人間科学研究科, 准教授 (20436596)
遠藤 環 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (30452288)
ヘンリー マイケル・ワード 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (80586371)
池内 幸司 東京大学, 大学院工学系研究科, 教授 (90794834)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 水災害 / アジア / デルタ都市 / 学際 |
研究実績の概要 |
2018年度の研究実績を以下の4つに大別して記載する。 第1に、本研究課題の参画メンバーを中心に、工学、経済学、社会学、文化人類学におけるレジリエンスや社会脆弱性、リスクといった本研究課題の鍵となる概念の検討とすり合わせを行った。その一環として、レジリエンス概念の発展史、およびその社会的、政治的、技術的な文脈についての検討を行った。その結果、レジリエンス概念が環境と人間の相互性に関する科学的な認識の向上と共に、この相互関係の複雑性を分析する数値モデルの発展と結びついていることを明らかにして、国際誌に査読付き論文を発表した。 また、広範な分野の観点も含めて社会的脆弱性やデルタのリスクを多次元で定量的に評価するための文献調査や枠組み作りに着手した。その新たな評価法の適用性を検証するため、ミャンマーなどをケーススタディとしたデータ解析を開始した。 第2に、参画メンバーでの合同予備調査をタイ王国のバンコクで実施した。2011年の大洪水の影響を受けたコミュニティや、その後に洪水対策が強化された地域や河川沿いの視察、洪水対策として移転政策が進むスラム・コミュニティにおけるインタビュー、また関連政府機関へのインタビューを実施した。 第3に、水災害のリスク評価手法の開発に関して、荒川下流域の江東デルタ地帯等を対象としたケーススタディを行った。具体的には、大規模水害時の社会福祉施設の人的リスクの推計と被害軽減効果を考慮した避難支援方策に関する研究し、査読付き論文を発表した。 第4に、香港市立大学やニューヨーク州立大学の研究者を日本に招聘し、ワークショップや意見交換会を開催した。またハーバード大学の歴史学やアジア地域学、災害人道学、空間情報科学の研究者と意見交換を行った。これらの活動を通して、本研究課題に関する国際ネットワークを強化するとともに多角的な議論を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の鍵となるレジリエンス概念の学際的な結びつきの幅広さは予想以上であり、より広範な分野の研究者との意見交換や共同研究が必要であることが明らかになった。特に、レジリエンスなどの概念整理や枠組みづくりは米国や西欧の研究機関が先行しているため、本研究成果を国際的に展開するためには、これらの研究機関との国際ネットワークの強化が課題であることが明らかになった。一方、アジアのデルタ都市の研究蓄積やネットワークに関しては、日本の研究機関の優位性が高いため、この利点を活かした研究活動を早急に展開する必要性を強く認識した。
個別研究の進め方について、既往研究では社会的脆弱性を決定論的に評価しているが、本研究課題で構築する評価枠組みでは確率的な評価を導入することで新たなアプローチを探索することとした。また、事例研究としてミャンマー及びニカラグアでの世帯調査データベースを使った解析を進めているが、これまでの統計解析によるアプローチのみならず、システム・ダイナミクスなどの動的分析方法を適用することを検討している。 昨年度に実施したタイ王国のバンコクでの合同予備調査においては、2011年の大洪水以降の洪水対策やコミュニティ移転政策は、複数の政府機関に管轄が分かれており、必ずしも当初の計画通りに進んでおらず、様々な政治的な思惑が入ってきていることが分かった。2011年大洪水後の対策の全体の概要と個別プロジェクトの趣旨、目的、効果を整理・計測するのは容易ではなく、2019年度は関連機関を網羅的に調査する必要性があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの調査において、レジリエンス概念を可能にした科学的、技術的基盤と、グローバルな環境政策ディスコースにおけるその役割の大枠を明らかにした。今後は、レジリエンス概念が、治水計画や水災害対策の場でいかに用いられているかを明らかにする。とくに、構造物やインフラストラクチャ・システムのレジリエンスの概念化とその背後にある社会集団、制度、コミュニティのダイナミックな特性としての社会的レジリエンスの概念化の間にはかなり複雑な関係があり、2019年度は研究を深めていく。 また、社会的脆弱性の多次元的な評価枠組みを構築するために、データベースの整理を終えて、最適な解析方法に関して調査する。その際、ミャンマーやニカラグアなどの実際の都市の世帯調査データや社会経済データを用いて、社会的脆弱性の要因やその要因間の関係性、地理空間の分布、自然災害リスクとの関係等を定量的に示す。 合同調査を行うタイ王国のバンコクでは、昨年度引き続き、洪水対策と予防の名目のために進む、河川沿いのスラム・コミュニティの撤去、及び移転政策について、政策側と住民側の両方の聞き取り調査を継続する。さらに、自然科学的知見と社会科学的知見、また物理的な洪水対策と住民のニーズをどのように関連機関が把握・理解し、政策策定過程に落とし込んでいるかを理解するために、管轄部局のインタビュー調査を進める。そして、量的調査のための質問票設計、および予備調査を実施する。
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