研究課題/領域番号 |
18H03828
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
市川 隆一 国立研究開発法人情報通信研究機構, 電磁波研究所時空標準研究室, 研究マネージャー (40359055)
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研究分担者 |
佐藤 晋介 国立研究開発法人情報通信研究機構, 電磁波研究所リモートセンシング研究室, 研究マネージャー (30358981)
太田 雄策 東北大学, 理学研究科, 准教授 (50451513)
宮原 伐折羅 国土地理院(地理地殻活動研究センター), その他部局等, 研究室長 (90825457)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 次世代超高感度ミリ波放射計 / 水蒸気 / 湿潤遅延 / GNSS / 災害ハザード |
研究実績の概要 |
年度当初の研究開発方針を踏まえ、気象研究所、国土地理院、及びNICTリモートセンシング研究室の協力を得て、KUMODeSの小型版である試作2号機「ミニデス」による試験観測を11月5-9日に気象研究所において実施した。天頂方向の湿潤遅延量変動を比較するため、同時にGNSS、Radiometrix社製マイクロ波放射計MP3000、及び地上気象測器の観測を行った。予備的な結果によれば、観測は成功し、取得データについて引き続き解析中である。
研究グループ内での議論を重ねつつ、次世代高感度ミリ波放射計の仕様について、要となる受信系の検討を進めた。20-60GHzの全帯域を受信可能な広帯域フィードを設計・製作し、フィードの後段で導波管型偏波分離器(OMT)を用いて水蒸気と液水の吸収帯域を含む20-30GHz帯と酸素の吸収帯である50-60GHz帯の2系統(水平・直交のそれぞれの偏波成分を取り出す)に分離、各々の信号を低雑音増幅器で受ける受信系とする仕様を固めた。まず常温の受信系を製作するが、その性能評価を踏まえて、必要な感度や時間分解能に応じてこの受信系全体を少なくとも77Kまで冷却することを想定した仕様とした。この仕様を踏まえ、研究代表を担うNICT時空標準研究室が、低雑音増幅器や冷凍機等の必要な電子部品の調達を進めている。
一方で、次世代超高感度ミリ波放射計の応用や計画年度後半での実証観測を想定し、東北大学では、断層すべりを搬送波位相変化から直接推定する手法によるゆっくりとした地殻変動現象をとらえるための技術開発を開始した。その結果、湿潤遅延量推定値と断層すべりの間に一定の相間があるとの知見を得た。また、国土地理院では、マイクロ波放射計等を用いて得た湿潤遅延量により生じ得るGNSS測位解について、先行研究の文献調査を行うとともに、影響の検証に使用する計算機を調達した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、KEKにより開発された「ミニデス」の試験観測を実施し、データについて解析中である。また、今後の実証実験を見据えた測地学的観点からの湿潤遅延によるGNSS測位への影響評価については、主として研究分担者の国土地理院と東北大学によって進められており、査読付き論文成果も得ている。同じく実証実験に向けての気象測器やGNSS解析環境等の整備も順調に進めることが出来た。
一方、試作機開発について、核となる広帯域受信系の設計・仕様固めは年度半ば過ぎには完了したが、電子部品の価格高騰や開発期間の制約の影響について慎重な検討が必要となった。そこで、研究グループ内での調整を踏まえて、まずは完動する試作機1台の開発を進め、必要に応じて改良を加えていく開発方針に修正した。
広帯域受信系の構成を検討する中で、周波数変換回路の工夫により、DC~26GHzの帯域で測定可能なスペクトラムアナライザ1台のみを用意するだけでデータ取得出来る可能性が見えてきた(開発当初は2台、ないしは3台のスペクトラムアナライザが必要と考えていた)。そこで、開発当初は77Kまで冷却した受信系を試作初号機として開発する予定だったが、まずは常温受信系として組み上げ、実際の受信性能試験を急ぐ方針に変更した。年度末までに、受信系試作機を構成する電子部品は概ね納入されており、次年度の当初より本格的な開発に着手できる状況にある。以上、当初の研究計画から多少の修正を要したものの、全体的にはおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
計画当初は、後年度実施予定の実証実験で積乱雲周辺や火山噴煙柱内の水蒸気分布2次元構造を得るために、放射計の試作機を2台製作する予定であった。しかしながら、前述の事情により、完動する試作機1台の開発を進め、必要に応じて改良を加える開発方針に修正した。これにより、実証実験の進め方も今後要修正だが、研究期間終了前に更に予算規模の大きな競争的資金の獲得も視野に入れて今後検討を進める。
今年度は、常温系の広帯域受信系試作機が夏頃には完成する見込みであり、これを既存のパラボラアンテナに搭載した試験観測を予定している。搭載候補アンテナは、NICT沖縄電磁波技術センターの3.7m口径、あるいは同鹿島宇宙技術センターの34m口径のパラボラアンテナである。沖縄では、アンテナ周辺に発生する積乱雲がターゲットになる。一方、鹿島では、34mアンテナ近傍の鹿島臨海工業地域に複数の大出力の火力発電所が点在しており、これらから排出される水蒸気の検知を目指す。34mアンテナは、水蒸気の吸収帯である22GHzの周波数では約0.03°のビーム幅となり、約3km離れた火力発電所からの排出煙を約1.4mの空間分解能で観測できる。ただし、排出される水蒸気の絶対量は非常に小さいと予想され、この評価観測は周辺の水蒸気量が少ない冬季に行う。
NICTリモートセンシング研究室、東北大学、及び国土地理院の各研究分担者については、「従来型マイクロ波放射計及び地上気象測器による性能評価観測の実施(NICTリモセン)。」、「外部情報としての湿潤遅延量を取り込むことで、新たに開発した断層すべり推定手法の安定性が向上するかの検討(東北大)」、及び「GNSS測位解への湿潤遅延量の影響を評価・検証するための数値計算環境整備(国土地理院)」、を各々実施し、後年度の実証実験に向けて準備を進める予定である。
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