研究課題/領域番号 |
18H03832
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高村 仁 東北大学, 工学研究科, 教授 (30250715)
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研究分担者 |
松尾 元彰 関西学院大学, 理工学部, 准教授 (20509038)
及川 格 東北大学, 工学研究科, 助教 (40733134)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イオン伝導体 / クロソイオン / 高圧合成 / 核磁気共鳴 / リチウム二次電池 |
研究実績の概要 |
今年度は巨大陰イオンとしてボラン[B12H12]2-を対象とした。まず、デカボラン(B10H14)、LiBH4を原料として高圧合成により無水・高純度かつ結晶性の高いLi2B12H12の合成条件の確立を図った。不定比性の少ない基本となる化合物を得るためにLiBH4とB10H14の比を1、1.05、1.10と精密に制御し400℃、2 GPa、6時間の高圧合成を行なった。粉末X線回折(XRD)において、いずれの試料でもLiBH4原料由来の不純物Li4B7O12Clが微量に観測されたが、その量はLiBH4とB10H14の比を1.10(B10H14-rich組成)とすることで極小化された。これは、定比組成ではLiBH4が過剰となることを意味する。格子定数も混合比1.10のものが最少となり、この合成条件で最も定比に近い化合物が得られることが示された。また、より均一性の高い前駆体を得るためにボールミリング法も活用された。 得られた試料のイオン伝導度は複素インピーダンス法により30~150℃の範囲で測定された。イオン伝導度は混合比が1、1.05、1.10の順に小さくなり、XRDからも示唆されたように1.10の試料が最も不定比性の少ないLi2B12H12化合物となることが分かった。また、活性化エネルギーはどの試料においても同程度であったことから、イオン伝導度の差異は不定比性に起因するキャリア濃度の差に由来すると考えられた。NMR分光からは[B12H12]2-の状態も混合比に依存することが判明した。さらに、キャリア濃度を増加させるためにCaBH4とMgBH4のドナー置換も試みられた。全固体二次電池への応用に関しては、還元性の強いLi2B12H12と化学的両立性を示し、かつ、電子伝導性に優れる酸化物電極材料の探索を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では、1) Li2B12H12の合成条件の確立を図る、2) より均一性の高い前駆体を得るためにボールミリング法を活用する、3) 不定比性制御のためのドーピング元素としてアルカリ元素を中心に検討するとしており、その内容を実施した。また、NMRやラマン分光法による巨大イオンの局所構造解析も実施したので、概ね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
クロソイオンの局所構造をNMRにより詳細に観測し、イオン伝導特性との相関を明らかとする 。また、新たな材料系の探索も継続する。まず、局所構造解析においては、BとHを含有するクロソイオンの対称性や運動性に関する情報をNMRにより得る。NMRはその場温度可変(最大350℃)測定システムを用いる。核種としては1Hと11Bを対象とする。化学シフトから対象核種の配位数 や結合長が、また、ピークの線形や緩和時間から回転運動の情報が得られる。NMR測定を相転移温度前後で行い、巨大陰イオンの局所構造と運動性を明らかとする。新たな材料系の探索に関しては今年度確立した高圧合成法をさらに発展させ、陽イオン位置への一価有機イオン(アンモニイウムやメチルアンモニウム陽イオン)の導入を試みる。高圧合成の条件としては、圧力範囲2~20 GPa、温度範囲RT~500℃を主として検討する。アルカリ金属、アルカリ土類ハライド添加ではLiサイトに対して20%以下のドープ量でイオン伝導度に大きな変化が認められたため、その範囲内での添加効果を検証する。また、相転移に及ぼす圧力の効果を高圧下その場イオン伝導度測定により調査する。
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