研究課題/領域番号 |
18H03848
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
東田 賢二 九州大学, 鉄鋼リサーチセンター, 学術研究員 (70156561)
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研究分担者 |
西口 廣志 佐世保工業高等専門学校, 機械工学科, 准教授 (00580862)
川崎 仁晴 佐世保工業高等専門学校, 電気電子工学科, 教授 (10253494)
定松 直 鹿児島大学, 理工学域工学系, 准教授 (10709554)
下川 智嗣 金沢大学, 機械工学系, 教授 (40361977)
田中 將己 九州大学, 工学研究院, 教授 (40452809)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 水素脆化 / 破壊靭性 / 亀裂 / 転位遮蔽効果 |
研究実績の概要 |
水素脆化は社会インフラや新エネルギー技術の基盤となる構造用金属材料の安全を脅かす深刻な問題であり,その原因解明と克服は喫緊の社会的課題である.しかしそこには未解決の学術的難問が存在する.それは,その破壊様式が巨視的には脆性的であるにも拘らず,微視的には延性的であるという従来理論では理解困難な一見矛盾した現象が存在することである.当研究ではその原因として,破壊靭性に本質的な影響を及ぼす転位遮蔽効果に対する水素の影響に着眼し,その検証を通して水素脆化機構を究明する. 今年度,シリコンウエハーに付したビッカース圧痕の角部から形成された亀裂とその周辺の内部応力分布への水素チャージの効果を,水素ガス圧を10MPaから100MPaまで変化させて,亀裂長さの変化を測定すると共に,赤外ラマン法を用いて内部応力の変化を詳細に観測した.まず,水素ガス圧を0から10MPaさらに35MPaまで増加させると亀裂長さの増加率は8%程度まで直線的に増加した.しかし,それ以上水素ガス圧を上げても,その増加率は一定となった.また赤外ラマン法を用いて,0.98Nのインデンテーションの周辺の内部応力分布を定量的に観測した.その結果,水素暴露によって,インデンテーション全体に分布する圧縮の内部応力が低下することが認められた.これらの結果は,結晶性材料の破壊靭性に本質的な転位遮蔽効果を通して理解することができる.研究代表者がTMS2022(The Minerals, Metals & Materials Society,米国鉱物金属材料学会)において,Crack-tip Shielding by Dislocations Analyzed by HVEM and Its Effect on Fracture Toughness and Hydrogen Embrittlementと題して招待講演を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
赤外ラマン法によるシリコンウエハー中のビッカース圧痕周辺の内部応力の定量的観察が概ね順調に進行している.{100} シリコンウエハー表面上にビッカース圧痕法を用いて導入した圧痕の内部応力が水素暴露によって低下すること,さらに圧痕角部から形成された{110}面に沿った亀裂の進展を定量的に明確化することができた.結晶性材料の破壊靭性の増大について,亀裂先端近傍での塑性変形が重要で有ることは従来より知られているが,一方その基本的メカニズムについて未だ議論が不十分であり,特に転位による亀裂先端応力遮蔽効果の重要性は十分に認識されて来なかった.そのような中,本研究では,水素が応力遮蔽効果を減衰させそれが水素による破壊靭性の低下をもたらす可能性を指摘したが,上記の水素添加に伴う,内部応力の減衰の定量的評価はそれを強く支持する結果である.それらを受けて,代表研究者が米国TMS(鉱物金属材料学会)において招待講演を行い,また放電プラズマを用いた研究グループや分子動力学を用いた研究もその成果を順調に発信しているなど,成果の公表についても進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
今年度,シリコン中の圧痕から生じた亀裂が水素暴露により進展し,その周辺の内部応力の減衰を定量的に観測できたことは,結晶性材料の水素脆性の普遍性を確認する意味でも大きな意義があったと考える.今後,本研究の要となる,転位によるき裂先端応力遮蔽効果が水素によって減衰することを,シリコン結晶でさらに徹底検証すると共に,不活性ガスなど他のガス元素の亀裂進展への影響も確認していくことが必要と考える.そして実験グループ,シミュレーショングループ相互の議論を深める一方で,ECF23(European Conference on Fracture 2022)など,論文や外部発表により成果公表も進めていく予定である.
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