研究課題/領域番号 |
18H03849
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
板倉 明子 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, グループリーダー (20343858)
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研究分担者 |
村瀬 義治 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, 主任研究員 (10354193)
青柳 里果 成蹊大学, 理工学部, 教授 (20339683)
宮内 直弥 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, NIMS特別研究員 (70451416)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 水素 / 水素透過 / 可視化 / 構造解析 |
研究実績の概要 |
この研究は、材料表面および近傍の水素の存在位置を走査型電子顕微鏡レベルの分解能で可視化し、動的環境・顕微視野で水素の挙動を観察する。この観察から材料の化学組成や構造ばかりでなく、粒界性格や転位を考慮した水素脆化解釈を行うことを目的とする。超高真空環境に試料背面から水素を供給することで、真空側に透過する水素を電子遷移誘起脱離法で検出し、局所構造解析(結晶構造・結晶粒界性格・結晶方位)と水素透過特性とを、同一の空間分解能、同一の温度領域で画像化し対比する。 ショットキー電子鏡筒の水素顕微鏡、フィールドエミッション電子鏡筒の水素顕微鏡を構築し(一部別予算を利用)、2020年度は外部操作系のプログラムなどを完成させた。コロナ禍の通勤自粛により実験等の進行が停滞したが、短い出勤時間での計測が可能な電子後方散乱回折(EBSD)による局所構造解析と、2019年度までに撮りためた数百枚の水素画像について、計算科学的な解析を行い、各結晶相で表面水素分布の時間応答性から、拡散係数、拡散流量の算出を行い、水素挙動と構造の関係を説明できない特異部分を抽出することができた(Journal of Vacuum Science and Technology B 38(2020))。また、複数の結晶相と界面を拡散する水素の透過モデルを構築した(Applied Surface Science 527 (2020),Scientific Report (2021) in printing)。 関連の研究としては、Journal of Physics Communications 4(2020), Materials Transactions 62(2021)の論文執筆を行い、装置開発部分の特許出願等を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
類似テーマの別予算(所属組織の補正予算)が配分されたことで、装置の開発が進んでいる。また、水素画像の時間応答性と構造解析の画像を用い、主成分分析で解析したところ、これまで報告されていない特異な水素拡散挙動を示す相を抽出することに成功していた(2019年度)。ここにスパースモデリングによる解析を加えたところ、特異構造を明確に抽出することができ、その領域のみの水素透過の時間応答性を取得することに成功した(コロナ禍で解析グループでのアルバイトの採用が上手くいかなかったため、人件費ではなく備品費とし、画像処理と計算処理能力をあげるためのパソコンを購入した。このため、解析が飛躍的に進んだ)。 水素透過特性ごとの領域を明確に区分できたことで、各領域での構造の比率を変数として、水素の拡散速度や透過のフラックスを整理することができた。これを利用し、2020年度の目標であった、複数の構造と界面を拡散して、金属薄板を透過する水素の拡散モデルを作ることに成功した。 一方、研究の発展を考えた時に、水素脆化の起点や、水素のトラップ一となりうる局所酸化領域の水素透過、あるいは、局所的な応力が生じた部分等の水素挙動を計測することが必要と考え、関連の特許を申請した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の水素拡散モデルとシミュレーションは、背面から表面への水素移動を一次元的にとらえたものだが、今後は横方向の拡散も考慮したモデルを構築する。モデル構築後のシミュレーション時に、単一相の水素の拡散係数や水素透過フラックス、隣接する構造を把握したうえでの粒界の拡散係数が「定量的に」とらえられていると実験結果と合わせやすい。そこで、FCCと粒界のみ、ほぼBCC構造のみ、などの試料を用いた水素透過可視化を行う。 定量評価には標準コンダクタンスエレメントを用いる(実効的な透過フラックスと、ESD水素イオンの比率は、電子源の種類や、入射電子のエネルギーとフラックスによるため、装置ごと・入射エネルギーごとに測定しておく必要がある)。 昨年度別予算(所属機関内の補正予算)で購入した、レーザーイオン化システムを用い、金属表面からの水素イオン(現在のESDでは水素イオンのみを検出)に加えて、ラジカルな中性水素原子を検出する。双方を同時にあるいは独立に検出することで、金属表面だけでなく、局所的な酸化物のある表面からの水素脱離を検出・考察する。(酸化物表面には自由電子がないことから、金属表面とはESDのイオン収率が異なるが、中性原子とイオンの双方を検出することで、この効果が減じられ、同一条件下で酸化物と金属を比較することが可能になる)。
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備考 |
2019年に公開した(2)のyoutubeは、2021年4月現在、再生回数82.7万回となっています。
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