本研究では、2つの原子の間に生じる化学結合エネルギーを計測することができる原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、化学結合論を検証することを目的とする。そのために、AFMの探針先端の原子と表面の原子との間の距離を変えながら、2原子間に生じる化学結合エネルギーを精密に計測する。様々な元素の原子対を用いることによって、化学結合に含まれるイオン性・金属性、また結合の方向性など、化学結合論の根幹をなす概念を検証し、それらの適用範囲を調べる。共有結合エネルギーは、原子軌道の化学状態に依存する。例えば、s軌道、sp3混成軌道、p軌道のように原子軌道の波動関数が異なると、共有結合エネルギーが変化すると予想される。CやSiがダイヤモンド構造をとるように、4価の原子間ではsp3混成軌道が一番大きな化学結合エネルギーを生むとされる。そこで、様々な化学状態を持つSi原子を用いて、軌道の混成と共有結合エネルギーの関係を検証した。シリセンの上に吸着させたSi原子を用いて実験を行った。吸着させたSi原子は下地の3つのSi原子と様々な結合角で結合しており、不対電子の化学状態が様々であるため、互いに比較することができた。異なる化学状態を持つSi原子において測定される相互作用力が異なることが原子レベルで確かめられた。
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