研究課題/領域番号 |
18H03860
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大矢 忍 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (20401143)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | スピントロニクス / スピントランジスタ / スピン流 / ヘテロ構造 |
研究実績の概要 |
現在、スピン流を用いた超低消費電力スピントロニクスデバイスの実現に大きな期待が寄せられている。スピン流デバイス全般において、スピンが結晶の乱れに対して非常に敏感であることは、応用上大きな課題である。スピンの向きを保ったまま高効率に電子を輸送するためには、オールエピタキシャル超高品質単結晶を用いた強磁性体/非磁性体へテロ構造の実現が不可欠である。本研究では、分子線エピタキシー技術を用いて超高品質ヘテロ構造を作製し、微細加工技術およびゲート制御技術を用いて、スピン流をスピン緩和の影響のほとんどない環境下で扱うことにより、今まで散乱に埋もれて見えてこなかった物質自体がもつ内因性の機能を引き出すことにより、高効率なスピントロニクスデバイスの実現を目指す。 2018年度は、高効率なスピン流電流変換が可能な系の実現を目指して、オールエピタキシャルのLSMO/LAO/STOヘテロ構造の成膜と高品質化を目指してきた。実際に、スピンポンピング実験を行い、内因性の逆エデルシュタイン効果に起因していることが支持される系統的な起電力の温度依存性と、正の値としては世界最高値である3.8nmの逆エデルシュタイン長を得ることに成功した。縦型スピントランジスタの研究に関しては、産総研の齋藤秀和博士らや物理工学専攻の岩佐教授らと共同で、GaOチャネルを用いたスピントランジスタ構造を作製し、室温で大きな磁気抵抗比と電流変調を得ることに初めて成功した(APEX誌に出版)。東京大学新領域創成科学研究科の岡本博教授らのグループと共同でピコ秒の超短テラヘルツパルスを利用した新たな超高速磁化反転方式の研究を行った。MnAsナノ微粒子がGaAsに埋め込まれたグラニュラー薄膜を利用して従来の研究の中では最も大きな20%もの磁化の超高速変調に成功した(APL誌に出版。Featured Articleに選定された)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
オールエピタキシャルのペロブスカイト酸化物LSMO/LAO/STOヘテロ構造において、正の値としては世界最高値である3.8nmの逆エデルシュタイン長(スピン流電流変換効率)を得ることに成功した。研究提案通り、物質そのものが持つ内因性の効果が、スピン流電流変換において極めて重要であることが実際に明らかになりつつある。また、MnAs微粒子を埋め込んだGaAsに対して、超短テラヘルツパルス光を照射することにより、従来の20倍程度の20%もの極めて大きな磁化変調に世界で初めて成功した。本成果は、Appl. Phys. Lett.誌に掲載され、Featured Articleに選定された。UTokyo FOCUSにも日本語と英語で紹介記事を掲載した。将来的にはピコ秒で動作する超高速のメモリの実現につながる成果と言える。縦型スピントランジスタの実現は、本研究課題における一つの重要なテーマであるが、室温で40%の大きな磁気抵抗比と電流変調の実現に世界で初めて成功した。 全体的に、研究計画以上に様々な成果が早期に得られており、国際的にも評価されている。
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今後の研究の推進方策 |
LSMO/LAO/STOヘテロ構造において観測された大きな内因性の逆エデルシュタイン効果については、バンド構造の情報を含めた理論的なアプローチを用いて、その原因について良く考察を行いたい。さらに高効率なスピン流電流変換を得るために何が重要なのか、スピン軌道相互作用を考慮したバンドエンジニアリングの視点から深く考察を行う予定である。縦型スピントランジスタ構造に関しては、研究計画に記述したように、ペロブスカイト酸化物等を用いて、強誘電体と組み合わせた新たなデバイスの方向性を開拓したいと考えている。一方で、最近の我々の研究から、新たな高効率な磁化反転現象が明らかになりつつある。電流を流すだけで磁化反転が可能である物質系が存在することが明らかになってきた。磁化反転に必要な電流密度は金属系で一般にみられる値よりも1,2桁小さいことが明らかになってきた。また、ある種の磁気トンネル接合系では、極めて小さな電圧を印加するだけで、面内で磁化が90度回転することが明らかになってきた。これは従来の5~10倍程度小さな電圧であり、また必要な電流はほぼ無限小であった。このような新奇の磁化反転現象は、物質の単結晶性に起因するものであり、将来の超低消費エレクトロニクスにつながる成果になると考えている。今年度は、これらの現象の理解と論文化、更なる効率化を目指した研究を展開したいと考えている。
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