研究課題/領域番号 |
18H03861
|
研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
水田 博 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (90372458)
|
研究分担者 |
小川 真一 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 招聘研究員 (00590085)
武田 淳 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (60202165)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | NEMS / グラフェン / フォノンエンジニアリング / ナノイオンビーム |
研究実績の概要 |
タスク【T1】: 長さ200 nm~10 um、幅50 nm~6 umのマルチスケール・グラフェン両持ち梁を作製し、分担者の小川真一氏と共同でヘリウムイオン顕微鏡の集束ヘリウムイオンビームによってグラフェン梁のミリング加工を実施した。その結果、ナノ孔直径3~4 nm、ナノ孔間隔 10 ~25 nmのGPnCを高速形成することに成功した(最大面積の素子で約7分)。また3次元有限要素解析を用いてフォノン分散関係を計算し、円形や四角形に比べて、十字形ナノ孔の方がフォノンバンドギャップ広域化に有効であることを見出した。 タスク【T2】: 7.5 fs超短パルスチタンサファイアレーザーを用いた顕微コヒーレントフォノン分光技術を構築した。自己相関法とルーラーによる時空間分解能評価から時間分解能~17fs、空間分解能~5umを確認した。これを用いて単層グラフェンのコヒーレントフォノン計測を行い、電子励起に伴うディラック電子の超高速のエネルギー・運動量緩和とGモードの高周波振動を観察した。一方、ナノ空間の電子・フォノン伝播を計測するため光ポンプ・テラヘルツ走査トンネル顕微鏡(THz-STM)を構築した。相変化材料Ge2Sb2Te5をテスト試料として用い、ナノスケールでトンネル電子計測ができることを実証した。 タスク【T3】: タスク【T1】で作製したサスペンデッド状態にしたマルチスケールの両持ち梁型グラフェンNEMS構造において、基板からバックゲート電界を印加してグラフェンに引っ張り応力を加える基本実験を実施した。 タスク【T4】:局所的にGPnCを導入したフォノニックヘテロ構造を考案し、その構造作製の基本実験を行った。また幅の異なる2つのグラフェンナノリボンを直列接続した幾何学的ヘテロ構造に対して、非平衡分子動力学シミュレーションを行い、フォノンボトルネックによるフォノン整流作用を見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GPnCの原子スケール作製では、グラフェン梁の長さ>1 umの大面積構造に対するサスペンションプロセスにおいてグラフェン梁が破壊される問題が生じたが、エッチング時の溶液入替え速度の制御とCO2超臨界観測技術の組み合わせによって克服することができた。これにより、当初の計画を超える長さ・幅~10 umの大面積グラフェン梁を形成することに成功した。また、その大面積梁全面に2次元GPnCを形成するプロセスにおけるグラフェン梁の破壊とビームのドリフトが懸念されたが、ナノ孔単位でのイオンビーム照射量と照射時間を制御することで高速・安定形成を実現し、当初の計画を達成することができた。 また、GPnCの計測においては、タスク【T2】において研究後半で実施予定であったTHz-STMを前倒しで構築するとともに、研究実施過程で新たに考案したナノスケール熱拡散法による計測の準備も並行して推進し、ナノスケール熱源・マルチサーモメタを含めたGPnC構造全体を宙吊りにした構造の作製に成功した。これらは当初計画を上回る進展である。
|
今後の研究の推進方策 |
タスク【T1】: 2次元グラフェンナノフォノニック結晶(GPnC)の作製・解析・評価においては、H30年度において作製に成功した長さ・幅が200nm ~数umの宙吊りグラフェン梁上に、集束ヘリウムイオンビームによってナノ孔直径3-4 nm、ナノ孔間隔10 ~20 nmのGPnCを形成する。この作製プロセスを高速(数分以内)かつドリフト無しで実現するビーム最適条件を見出す。また、クロス形状など非円形ナノ孔でのGPnC、およびスタッガード格子や2重格子構造を有するGPnCに対し、3次元有限要素法と原子スケールシミュレーションを用いてフォノン分散関係を解析し、GPnC構造とフォノンバンドギャップの広帯域化および群速度低下の相関を明らかにする。 タスク【T2】:空間分解能やサンプルへのアクセスの問題で、現在の顕微コヒーレントフォノン分光では、GPnCのフォノンダイナミクス計測は困難で有ることがわかった。そこで、カセグレン鏡を含む分光系を見直し、空間分解能を現在の5 umから2 um程度に改善することを試みる。光ポンプTHz-STMにおいては、すでにGSTにおけるナノスケール相変化やグラファイト表面の原子像を捉えることが達成できている。今後、GPnCサンプルへアクセスするための高解像度カメラをSTMに設置し、GPnCにおいてナノスケールでのトンネル電子計測を行う。 タスク【T3】: グラフェン波動性フォノン伝播変調・制御機構の開拓においては、局所的GPnCの導入や幅の異なる2本のグラフェンナノリボン直列接続によるフォノニックヘテロ構造を設計・作製し、ヘテロ界面での熱伝導率の温度依存性の空間的変化と非平衡フォノンボトルネックによる熱フォノン整流作用の発現を試みる。 タスク【T4】: タスク【T1】【T2】【T3】の知見と成果をもとに熱整流素子と熱3端子スイッチの具体的構造の設計を行う。
|