研究課題/領域番号 |
18H03872
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
福村 知昭 東北大学, 材料科学高等研究所, 教授 (90333880)
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研究分担者 |
岡 大地 東北大学, 理学研究科, 助教 (20756514)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 酸化物エレクトロニクス / 薄膜新材料 / 超伝導体 / エピタキシャル成長 |
研究実績の概要 |
今年度は、様々な希土類単酸化物のエピタキシャル薄膜の作製と基礎物性の評価に取り組んだ。また、薄膜作製用のパルスレーザー堆積装置等を購入し、今後の研究メンバーの増加に対応できる研究環境を整えた。 ネオジミウム単酸化物のエピタキシャル薄膜を初めて作製した結果、キュリー温度が約20 Kの新しい遍歴強磁性体であることがわかった。常磁性体という約40年前の報告を書き換える結果である。また、非磁性かつスピン軌道相互作用が大きい物質として、イッテルビウム単酸化物を合成して初めて電気伝導性を調べた結果、室温における高い電子移動度を見出した。この結果をまとめた論文はAppl. Phys. Lett.誌のエディター選出論文に選ばれた。くわえて、ルテチウム単酸化物を初めて合成した結果、スピン軌道相互作用が大きい物質であることがわかり、論文発表した。さらに、ランタン単酸化物が5 Kの転移温度をもつ新超伝導体であることを発見し、J. Am. Chem. Soc.誌に論文発表した。この超伝導は、電子濃度や格子歪で転移温度が変化する興味深い性質を示した。他の希土類単酸化物薄膜の合成、キャリアドープ法や薄膜の結晶性を上げるバッファー層の開発については、現在も継続中である。 極低温走査型トンネル顕微鏡を用いた実験については、直結したPLD装置で作製した薄膜をSTM/STS観察するノウハウを確立したので、今後、希土類単酸化物薄膜等のその場測定を開始する予定である。また、ヘテロエピタキシャル構造については、すでに薄膜合成の報告がある強磁性半導体ユーロピウム単酸化物を用いると、ランタン単酸化物など他の希土類単酸化物とのヘテロエピタキシャル構造を作製可能であるという予備的結果が得られており、今後、強磁性/超伝導接合や、強磁性/高スピン軌道相互作用物質、といったヘテロエピタキシャル構造を作製可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
希土類元素の種類による多少の難易度の差はあるが、希土類単酸化物の薄膜合成技術を向上させた結果、これまで試みたすべての希土類単酸化物薄膜の作製に成功しており、今後も新しい薄膜材料を得られる見込みが十分ある。さらに、希土類元素の種類により、希土類単酸化物の物性は非常にバリエーションがある、という新しい知見を得ることができた。また、ヘテロ構造の作製も、当初の予想より容易であることがわかってきた。今後、ヘテロ構造・界面の物性を開拓することが可能である。
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今後の研究の推進方策 |
希土類単酸化物の薄膜成長技術が蓄積されてきたため、引き続き、新たな希土類単酸化物エピタキシャル薄膜の作製と基礎物性の解明を進め、キャリアドーパントの手法開発も行う。主に、セリウム、プラセオジウム、ガドリニウムの単酸化物薄膜を作製し、電気伝導特性および磁性を評価する。また、予備的結果から新強磁性体であることがわかったネオジミウムの単酸化物の磁性の詳細も調べる。年度後半に学生が配属されるため、テルビミウム以降の後期希土類単酸化物の合成と電気伝導特性と磁性の評価を行うキャリアドーパントの手法として、酸素欠損の導入および水素の添加を試みる。また、薄膜の結晶性の向上のために、バッファー層の開発を行う。 そして、これまで開発してきた単酸化物を用いてヘテロエピタキシャル構造の作製と物性評価を進める。ユーロピウム単酸化物は希土類単酸化物で唯一古くから知られている物質でエピタキシャル薄膜も作製可能な強磁性体である。このユーロピウム酸化物と新超伝導体のランタン単酸化物の強磁性/超伝導ヘテロ接合の作製を試み、強磁性が超伝導に与える効果を調べる。ランタン単酸化物はスピン軌道相互作用が大きい電極とも見なせるので、スピンホール磁気抵抗等の磁気伝導測定も行い、既存の強磁性絶縁体/金属接合の磁気伝導との比較を行う。また、ユーロピウム酸化物とネオジミウム酸化物のヘテロ接合を作製し、磁性や磁気伝導特性を調べる。酸化物薄膜をその場測定できる目処が立ったため、走査型トンネル顕微鏡を用いたトンネル分光で、薄膜の電子状態計測にも取り組む。今年度は、研究代表者の福村が研究を統括して希土類単酸化物の物質設計・ヘテロ構造設計と物性解析を行い、研究分担者の岡大地が薄膜作製とバッファー層・化学ドープ法の開発、研究協力者の岡博文が薄膜の原子分解能トンネル分光を担当する。
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