金属元素を含む複合酸化物の表面と界面は、電池反応や触媒反応が起きる舞台として極めて重要である。しかし、複合酸化物について 、原子レベル空間分解能で表面電子状態を明らかにすることは難しい。そこで代表者らは、金属酸化物エピタキシャル薄膜作製技術と走査トンネル顕微鏡(STM )技術を組み合わせ、金属酸化物薄膜表面における原子構造や特異な電子状態を明らかにしてきた。そして本研究では、その表面/界面の知見を環境・エネルギー材料開発に展開する。具体的には、応用物理的視点(固体物理や半導体物理)を電気化学研究に導入し、異分野融合を意識しつつ、物質開拓、および物性研究を行った。 以下の研究を進めた。 1. 金属酸化物の可能性を広げるため、7種の金属元素を含むハイエントロピー酸化物の薄膜成長を試みた。その結果、エピタキシャル薄膜成長に成功した。 2. LiTi2O4混合伝導体とLi3PO4が形成する界面において、仕事関数を制御することにより、イオンの移動方向を制御することに成功した。 3. LiCoO2とLi3PS4が形成する界面に着目し、その電子物性とLiイオン伝導特性を明らかにした。界面に数nmの厚みのAl2O3やLiNbO3を挿入し、イオン伝導への影響を調べた。これは、全固体電池の動作において、極めて重要な課題である。 4. 低温走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて、ペロブスカイト型遷移金属酸化物SrVO3超薄膜上に吸着したTb3+ダブルデッカー分子TbPc2(Pc = phthalocyaninato) を観測した。TbPc2分子は、SrVO3の表面再構成のアドアトム構造に支配された吸着配置であることが明らかになった。このような酸化物表面における分子吸着配置の精緻な制御が、触媒効果などに直接関与すると考えられる。
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