研究課題
本研究は3つのサブテーマから構成されており、次の事柄を行った。(A)高スピン軌道相互作用材料の開発:3d強磁性金属と高スピン軌道相互作用材料との合金薄膜材料を作製した。薄膜をトンネル接合デバイスに加工し、電界効果を評価した。材料としてBi, Pt, Ir, Pd, Re, Fe, Co, Niを用いて様々な組み合わせを試した。まず単体ではFe > Co > Niの順で垂直磁気異方性が大きく、電界効果はFe < Co > Niとなる結果を得た。特にCo単体において100 fJ/Vmを超える電界効果が得られたことは驚くべきことである。次に合金を評価した。結果としてPt及びIrにおいて比較的大きな100 fJ/Vmを超える電界効果を得た。一方でBiの電界効果は20 fJ/Vm程度と小さかった。これらの結果は、高いスピン軌道相互作用を有し、さらにd電子軌道が空いている遷移金属の利用が効果的であることを示している。(B)化学秩序制御による電気四極子機構の最適化:FeCoPd合金を作製し、トンネル接合デバイスに加工して電界効果を評価した。合金規則度と電界効果の相関に着目するため、電界効果の熱処理温度依存性を評価した。FePd及びCoPd合金では熱処理による電界効果の増大は得られなかったが、FeIr合金では熱処理により電界効果が増大する傾向があった。(C)機能性分子修飾による磁気双極子機構の最適化:Fe/CoPc/MgO薄膜をデバイス化し、磁気異方性と電界効果を定量評価した。結果としてFe/CoPc/MgOの磁気異方性はFe/MgOより向上、電界効果はFe/MgO同等という結果を得た。デバイスをX線磁気円二色性分光で評価すると、CoPcによりFeの軌道磁気モーメントが増強されていることがわかった。第一原理計算からは中心金属よりもリガンド(ベンゼン環)が重要であることを示唆する結果を得た。
2: おおむね順調に進展している
「(A)高スピン軌道相互作用材料の開発」では有効な元素が明確になってきており、「(B)化学秩序制御による電気四極子機構の最適化」では化学秩序制御が有効である材料の組み合わせがわかってきた。「(C)機能性分子修飾による磁気双極子機構の最適化」では分子の効果がX線磁気円二色性分光及び第一原理計算で明らかになってきている。このように研究は当初の予定通り順調に進んでいる。
「(A)高スピン軌道相互作用材料の開発」では有効な元素が明確になってきたため、さらに重畳して効果を大きくするため前年度に評価した5dや6p金属に加えて特徴的な電子状態の利用により実効的にスピン軌道相互作用を大きくする方法を試みる。「(B)化学秩序制御による電気四極子機構の最適化」では化学秩序制御が有効である材料の組み合わせがわかってきた。具体的にはIr合金が有望であるため、FeIr及びCoIr合金を精査する。「(C)機能性分子修飾による磁気双極子機構の最適化」では分子の効果がX線磁気円二色性分光及び第一原理計算で明らかになってきた。そこで更なる知見を得るために磁気トンネル接合デバイスのトンネル分光を行うことにより、CoPc挿入により具体的に電子状態がどのように変化したかを実験的に評価する。これらの結果から次に試す分子の設計を行う。なお、初年度は研究代表者の機関異動により初動が遅れたため、次年度はさらに研究を加速させる予定である。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 9件、 招待講演 7件) 備考 (1件)
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